フェルガナ盆地を首都につなぐ山岳鉄道

人口密集盆地への入り口が国境ではばまれる

決して物騒な話をするわけではないが、東海地方を中心とする中部一帯が隣国領になり、二大都市圏、東京と大阪の平野部移動ができなくなったとしたらどうだろう。社会生活の分断はもとより、国としての一体的発展が大きく阻害されるはずだ。これと同じようなことがフェルガナ盆地で起こった。豊かで人口密度の高いフェルガナ盆地は中央部のほとんどがウズベキスタン領だが、その入り口(盆地主要河川シルダリアの下流部)はタジキスタン領になってふさがれている。国内人口の3分の1を擁するフェルガナ盆地域とタシケントなどウズベク「本土」が急峻な山岳地帯を通じてしかつながらなくなってしまった。

日本の場合なら、日本海側を通って首都圏と近畿を結ぶという手がある。しかし、フェルガナ盆地周囲に海はない。最高で標高3,769mのクラマ山脈、峠(クムチック峠)としても 2,268mの山岳を越えるルートに頼らなければならなくなた。このうち道路は、古くから、タシケント方面から聖なる山のあるオシに向かう山道(近道)がかろうじてあった。これが現在、盆地と他のウズベク地域を結ぶ唯一の道路となり、急速に整備されてきた。国道A373、欧州ルートE007(タシケントーオシー中国国境)に指定され、片側2車線・IBカテゴリーの高速道路、一日平均交通量18 530台の幹線路となった

鉄道は、タジキスタン経由で行く他なかった

鉄道は、ソ連時代につくられた広軌路線がタジキスタン領を経てフェルガナ盆地につながるだけだった。ウズベキスタンはタジキスタンに年間2500万米ドルの通過料を支払ってこの路線を利用する他なかった。国の人口の3分の1を占めるフェルガナ盆地地域を鉄道で結ぶという国家的事業が2013年に始まり、中国などの援助を得て、2016年6月に123キロの電化路線(Angren–Pop railway line)が開通した。

2016年、自国領のみで行ける山岳路線が完成

すでに鉱山都市アングレンまで鉄道が行っていたので、ここから山を越えてフェルガナ盆地入口のポップまで伸ばす山岳鉄道だった。峠付近の山では長さ19.2キロのカムチク・トンネルが通る。日本の新北陸トンネル、新関門トンネルなどとほぼ同じ長さで、中央アジア最長、旧ソ連圏最長のトンネル。この新線が建設されたことで、フェルガナ盆地と他のウズベク地域との連結は劇的に改善された。

9月4日、朝8時10分タシケント発の電車でフェルガナ盆地方面に向かう(写真はポップ駅に停車した列車)。ナマンガンまで直通で行きたかったのだが、満席で予約が取れずポップまで。約250キロ、4時間弱の旅。152,950スム(約1600円)。フェルガナ盆地への鉄道は、入口のポップで北のナマンガン方向と、南のコーカンド、アンディジャン方向に別れる。どうも南に行く方が主流らしく、ナマンガンまで行く列車は本数が少ない。この列車もアンディジャン行きで、私はポップ途中下車の形。
中央アジアで鉄道と言えば普通寝台列車だが、これは珍しく座席型だ。ゆったりして楽。ナマンガンへの直通列車が満席で予約できなかったのに、この列車はかなり空いていた。
タシケント駅を出ると最初は平原だが、徐々に左手にチャプトカル山地が見えてくる。
やがて右手にはクラマ山地。両山脈の間にアンチャンガラン(アングレン)川が流れる。シルダリア川の支流だ。この川がつくる渓谷に沿って上流の鉱山都市アングレンがあり、その先に今回越えるクムチック峠がある。
1時間強でアングレンの駅に。タシケント州における石炭採掘の中心地で、街の基礎づくりにはシベリアから連行されてきた日本人捕虜が使役されたという。
労働者の団地といった風情の建物が見える。
そしてこれはいかにも「鉱山都市アングレン」らしい風景。
アングレンの先は新設された路線だ。アンチャンガラン川に沿って山岳地帯を登っていく。
平行して走る国道A373が時折顔を出す。
このオルドゥー駅を出た後、中央アジア最長のカムチク・トンネルに入る。
トンネルを抜けてからはこのチョダック駅がある。トンネルの撮影には失敗。
それ以外の短いトンネルもいくつかあった。こちらは撮影に成功。
今度は山岳地帯の下りだ。列車が順調に進む。
依然として険しい山岳地帯だが、
不思議なことに谷の川沿いには緑があり、集落も形成されている。山間の谷間からフェルガナ盆地は始まっている、と言えるかも知れない。
次第にその谷が広くなり、山が低くなり、
フェルガナ盆地の緑の平原が見えてくる。
そして正午近く、ポップ駅に着いた。