「エスノバーブ」 郊外でマイノリティ増大

夏の昼、家の中にこもっていると、童謡のメロディーが流れ、アイスクリームの巡回販売車が道路を流していく。思わずシェイドの隙間から外をのぞく。去年の夏も来ていたのだろうか。今年になってからのことに思われる。ヒスパニック系の夏の風物詩、流しのアイスクリーム販売車がこのコンコードの住宅街にも来るようになった。

買ってみると、普通のバニラアイスが1個3ドル。ちょっと高いんじゃないの。でもまあいいか。子ども相手のアイスクリーム売りのおじさんは優しく、、と思っていたら、いかつい方。車道側から近づくと、こっちに寄って来て、と歩道側の扉を開けアイスを売る。バンの車道側には「子どもが居るので停車!」の注意書きがたくさんあって、危険防止している。

典型的な流しのアイスクリーム販売車。資料写真。Free for commercial use, pxfuel
コンコードの住宅街を流すアイスクリーム販売車。車道側には「子どもが居るので停車!」の注意書きがべたべたと。

毎日運動しに行く公園は地域に住む人たちの様子が反映されておもしろい。昔からサンフランシスコ圏に住んでいた者にとって、コンコードは裕福ないわゆる「白人中産階級の郊外の街」だった。今でもある程度はそうで、植物園的な近くの公園に行くと、暑さをしのいで白人の家族連れがたくさん居る。だが、そこからあまり離れていない広いスポーツ向けの公園に行くと、ヒスパニック系などマイノリティの人々がたくさん居る。

しばらく留守にしているうちに、一段と増えてきたのではないか。ある夕方、思い立って公園を回って観察してみた。すると、9割はヒスパニックの人たちだった。壁打ちテニス場は、ほとんどヒスパニックの若者で、テニスでなくハンドボールをしている。オリンピック競技のハンドボールでなく、手でボールを交互に壁に打ち付けるアメリカ発のハンドボールだ。何の道具もなしに壁さえあればできる。広い芝生にはバレーボールのネットがいくつも張られ、大勢のヒスパニック系の人たちが興じている。サッカーとともにバレーボールは彼らの人気のスポーツらしい。

毎夕方、芝生の公園がヒスパニック系若者たちのバレーボール・コートになる。

意外に毎夕方、子連れのスカーフをかけた女性たちを見る。イスラム教徒か。とするとイラン系か。ある時、バレーボール集団の一隅で、丸く白いつばなし帽子をかぶった男たちのグループがプレーしていた。おや、中東系か。そのうち自分たちのネットをたたむと、一列に並んだ。わーお、メッカに向かってお祈りを始めたぞ。

テニス場は白人が多いが、インド系も多い。クリケットの平たいバットでボール投げ練習している者もいた。サンフランシスコ都市圏には中国系も多いのだが、ここではほとんど見ない。東アジア系は私ぐらいだ。でも、そういえば、別のテニス場に行ったとき、フィリピン系のおじさんたちとテニスしたことがあるぞ。

もはや「チョコレートの中心部とバニラの郊外」ではない

郊外でマイノリティ人口が増えている。それを近年明確な形で示し、よく参照されるようになった報告書は、ブルックリン研究所の「メルティングポット型の都市と郊外」(William H. Frey, Melting Pot Cities and Suburbs、May 2011)だろう。その冒頭は次のように始まる。

「アメリカの人種と場所に関する古いイメージは急速に変わりつつある。その変化は米国の大都市と郊外で最も明確だ。かつて広く持たれていた「チョコレートの都市部とバニラの郊外」というステレオタイプはすでに過去のものとなっている。実際、2000年国勢調査でも、増大する”メルティングポット郊外”の人種的民族的多様性は示されていたが、2010年国勢調査の当初結果は、さらに広範な変化を明らかにしている。」

マイノリティも半数以上が郊外に住む

同レポートは、主に2010年国勢調査の結果から全米上位100の都市圏の中心部、郊外の人種統計を分析し、次のような特徴を明らかにした。

1990年に上位100都市圏郊外人口の81%を占めていた白人は2010年には65%に下がり、ヒスパニック、黒人、アジア系などマイノリティの人々が35%を占めるようになった(ヒスパニック17%、黒人10%、アジア系6%)。1990年には、マイノリティが多数派になっていた郊外は100都市圏中4都市圏のみだったが、2010年にはこれが16都市圏に増えた(都市中心部にマイノリティが多いのはすでにニュースではなく、2010年に、半数を超える58の都市圏中心部がマイノリティ多数派)。マイノリティの人々が都市圏のどこに住んでいるかを見ると、ヒスパニックで59%、黒人で51%、アジア系で62%の人々が郊外の方に住んでいた。つまり、それまで大都市内部に住んでいると思われていたマイノリティの人々も、半数以上が郊外に住むようになったということだ。

「中心都市部」と「郊外」の定義

郊外というのは都市中心部から連続していて、どこからが郊外なのか明確に区分けするのは難しい。上記ブルックリン研究所レポートは、便宜的に次のように定義して分析している。

米国では、人口統計データを取るうえで、通勤率などで経済的つながりのある都市域を郡単位に統計都市圏(metropolitan statistical area)に規定している。この都市圏は中心部主要都市を人口の多い順に最大3つまで並べて呼称することになっている(ただし人口10万を超える都市に限る)。例えばベイエリア北部5郡を含むサンフランシスコ統計都市圏ならSan Francisco-Oakland-Fremont Metropolitan Statistical Areaと呼ぶ。このSan Francisco、Oakland、Fremontの3市を中心部都市と規定し、それ以外をすべて「郊外」とするのだ(同都市圏では人口順位が変わったため、2013年からFremontの代わりにHayward、2018年からHaywardに代わりBerkeleyを入れて呼称)。実際はサンフランシスコ市内にもかなり郊外的な住宅地はあるし、この3中心市以外にも都市中心部的な場所はあるが、細かいことを言ってはきりがない。とりあえずそう規定する。そうすれば統計分析上もやりやすくなる。苦肉の策ではあるが、大体の傾向は間違いなくとらえらえるだろう。

エスノバーブかスラムバービアか

こうしたマイノリティが増大する郊外はエスノバーブ(ethnoburb)と呼ばれるようになった。エスニック(ethnic)と郊外(suburb)をかけ合わせた造語だ。コネチカット大学のウェイ・リーが1998年の中国系地域社会の分析で使い始めた言葉だが、現在では他のマイノリティの郊外地域も含めてよく使われる。一般的にはエスニックな飛び地(ethnic enclave)などと言われる。これらのうち、マイノリティが多数派を占めるようになった所は、多数派マイノリティ(majority-minority)地域、マイノリティ多数派(minority-majority)地域などと呼ばれる。マイノリティでも高所得者が増えてきた事情が背景にあるが、それでも、貧しいマイノリティが郊外に行くことで都市内のスラムがスラムバービア(slumburbia)に変わるだけだと批判的に見る人も居る。理想郷的な郊外「サバービア」(suburbia)に対し、スラム化した郊外という意味だ。(アレックス・シャフランのまとめによると、2008年3月のThe Atlanticにクリストファー・ラインバーガーが、インパクトの大きかった記事”The Next Slum?”で郊外が荒廃に向かう歴史的趨勢を明らかにし、それを受けてキャロル・ロイドが同月のSan Francisco Chromicleコラム記事の中で初めてスラムバービアの言葉を使ってから、この言葉が広がったという。)

サンフランシスコ湾岸都市域(ベイエリア)

カリフォルニアは州全体として2000年国勢調査時からマイノリティが多数派になっているが、その北部、サンフランシスコ湾に面する9郡からなる都市域「ベイエリア」(人口715万、2010年。正式な統計都市圏ではないが、地元ではこっちの方が通りがいい)も2010年に白人人口が半分を割った。割合は、白人42.4%、ヒスパニック23.5%、黒人6.4%、先住民0.3%、アジア系23.0%、太平洋系0.6%、その他0.3%、混成3.5%だった。その9郡の一つ、私の住むコントラコスタ郡(下記地図の北東部)は典型的な郊外地域と言えるが、その人種構成は下記表のような変遷を遂げている。1970年には白人が90%だったが、現在では郊外でありながらマイノリティが多数派を占める。前項で同郡最大都市コンコードの人種構成の変遷を掲げたが、郡全体の傾向を代表するような変化であったことがわかる。2018年の白人人口はコンコードも郡もともに49%前後で同レベルだ。

サンフランシスコ湾岸都市域の人種別居住状況(2010年)

サンフランシスコ湾岸都市域の人種別居住マップ。赤が白人、オレンジがヒスパニック、青が黒人、緑がアジア系を示す。白人は全般的に多いが、サンフランシスコ主要部と郊外に多いのがわかる。黒人はオークランドなどイーストベイ(湾東地域)、アジア系はサンフランシスコのチャイナタウン、同市太平洋岸のリッチモンド、サンセット地区、同市南部から半島地区(地図上では切れているがシリコンバレー方面にも多い)、イーストベイのシリコンバレー寄りなど。ヒスパニックはサンフランシスコのミッション地区の他、サンフランシスコ南部、イーストベイなど各所に集住地区がある。東部郊外コンコード周辺にも集住地区があるのがわかる。By Eric Fischer – Race and ethnicity 2010: San Francisco, Oakland, Berkeley, CC BY-SA 2.0,

カリフォルニア州コントラコスタ郡の人種構成

2000年 2010年 2018年推計
白人 549,409 57.9% 500,923 47.8% 63,105 48.7%
ヒスパニック 167,776 17.7% 255,560 24.4% 39,740 30.6%
黒人 86,851 9.2% 93,604 8.9% 4,499 3.5%
先住民 3648 0.4% 2,984 0.3% 242 0.2%
アジア系 102,681 10.8% 148,881 14.2% 13,789 10.6%
太平洋系 3157 0.3% 4,382 0.4% 144 0.1%
その他 2636 0.2% 3,122 0.3% 151 0.1%
複合 32,658 3.4% 39,569 3.8% 8,011 6.2%
 計 948,816 1,049,025 129,681

マイノリティ多数派都市例:リッチモンド、アンティオック

郊外の街でも、マイノリティ多数化の進む街と、依然白人が多数を占める街がある。コントラコスタ郡の中では、前者の例として郡内第2の都市リッチモンド、同第3の都市アンティオック、後者の例として奥まった小都市クレイトンをあげておく。

リッチモンド(人口11万で郡内第2)は、郊外というより、サンフランシスコ湾に面した工業地帯。昔から石油精製、造船などが盛んで、太平洋戦争中に黒人労働者を多く導入したこともあり、比較的早くからマイノリティ人口が多かった。それでも1960年前後まで白人が8割だった。それが現在では19%まで減少し、ヒスパニックを始め8割をマイノリティが占める。

アンティオック(人口11万で、郡内3位。2位に浮上する可能性)はコントラコスタ郡東部の郊外住宅都市。サンフランシスコから80キロ離れているが、中心部の地価・家賃上昇で低所得者が遠方に押し出され、マイノリティ人口が増える趨勢を代表している。アンティオックは、高速道路の他、アムトラックの既存鉄道でオークランドなど都市圏中心部と結ばれ、2018年には郊外高速鉄道BARTの終着駅も開業し、通勤がさらに便利になった。今後も発展が見込まれる。1980年まで白人人口が9割を占めたが、現在29%まで減少。マイノリティ多数派都市となっている。

遠郊外に「白人中産階級の街」

つい最近マイノリティ多数化した郡内最大都市コンコードは前述の通り平均的な動きだったが、上記2都市などは、それが極端に進んだ事例と言える。逆に、依然白人人口が多い街として前項でウォルナットクリークをあげたが、これがさらに徹底している街としてクレイトンを例に挙げておく。一般に、郊外でも特に遠郊外(exurb)の自然豊かな地に、いわゆる「白人中産階級の郊外都市」が多く立地している。多くは小自治体だ。クレイトンもコンコードからさらに山地帯に入った小自治体で、ディアブロ山登山の入り口にあたる。1980年の白人人口は92%で、徐々に減ったが、現在でも74%程度を維持している。

リッチモンド市の人種構成の変遷

2000年 2010年 2018年推計
白人 21,081 21.2% 17,769 17.1% 21,157 19.2%
ヒスパニック 26,319 26.5% 40,921 39.5% 43,785 39.7%
黒人 35,279 35.6% 26,872 25.9% 17,747 16.1%
先住民 351 0.1% 250 0.2% 221 0.2%
アジア系 12,077 12.2% 13,783 13.3% 21,740 19.7%
太平洋系 476 0.5% 462 0.4% 1,099 1.0%
その他 400 0.4% 585 0.6% 1,485 1.3%
複合 3,233 3.3% 3,059 2.9% 2,941 2.7%
 計 99,216 103,701 110,175
リッチモンドはサンフランシスコ湾の工業都市。湾に面して多数の製油所石油タンクが見える。サンタフェ鉄道の終点として交通の要衝でもあった。

アンティオック市の人種構成の変遷

2000年 2010年 2018年推計
白人 50,644 55.9% 36,490 35.6% 32,062 29.0%
ヒスパニック 20,024 22.1% 32,436 31.7% 37200 33.6%
黒人 8,551 9.4% 17,045 16.7% 21,973 19.8%
先住民 513 0.6% 455 0.4% 967 0.9%
アジア系 6,513 7.2% 10,322 10.1% 11,686 10.6%
太平洋系 310 0.3% 743 0.7% 967 0.9%
その他 178 0.2% 251 0.2% 309 0.3%
複合 3,802 4.2% 4,630 4.5% 6,315 5.7%
 計 90,535 102,372 111,479
アンティオックまで郊外高速地下鉄BARTが伸びた。2つ手前の駅でジーゼル動車に乗り換える。

クレイトン市の人種構成の変遷

2000年 2010年 2018年推計
白人 9,000 83.6% 8,640 79.3% 8,824 73.7%
ヒスパニック 681 6.3% 982 9.0% 1,264 10.6%
黒人 113 1.0% 144 1.3% 228 1.9%
先住民 16 0.1% 30 0.3% 116 1.0%
アジア系 577 5.4% 707 6.5% 815 6.8%
太平洋系 9 0.1% 14 0.1% 0 0.0%
その他 30 0.3% 32 0.3% 1 0.0%
複合 336 3.1% 348 3.2% 7 6.0%
 計 10,762 10,897 11,255
緑多いクレイトン市中心部の街並み。