パソコンが届くまで25日間待った

「Have a nice day.」

私にパソコンを渡すと、税関職員が言った。トルコでよく聞く。おそらくトルコ語会話でもそのような言い回しがあるのだろう。だから英語になってもこれが出る。

そうだよ、きょうは本当にいい日にするぞお、、、

決まり文句に声は返さなかったが、私は興奮してそう念じた。

EMSも使ったのに

日本のヤフオク(ヤフーオークション)で買ったノートパソコンを4月4日についに入手した。EMS(国際スピード郵便)も使ったのに、3月10日に落札してから何と25日かかった。アマゾン日本に直接オーダーした外付けキーボードは4日で私の宿に届いている。条件が違うので単純比較できないが、あまりに違いすぎる。

落札してからブツが国内の輸出業者に届くまで6日。かかりすぎだが、ヤフオクは素人の売買サイトだからこれはやむを得ない。3月16日に海外発送業者に届いてからこちらで入手するまでだと19日。これでもかかりすぎだ。

業者が受け取ってからEMSを発送するまでにやはり6日。土日が入っているのでやむを得ないが、改善の余地はあるのではないか。そしてEMS小包は大阪の郵便局に提出されるとイスタンブール空港まで4日で届いた。これはいい。後述のアマゾン国際航空便を担当したDHLの所要日数と同じだ。

すべてウェブ上で追跡チェックできる。イスタンブール空港に着いた日に即、税関にまわされたのがわかる。難関だ、と心配していたが、思いのほか早く2日で税関を出た。取り扱い局に返却され、即「発送」となった(下図参照)。やった、すぐ届くだろうと喜び、宿で待った。

だが、来ない。水曜日に発送されたのに、木曜日になり金曜がむなしく過ぎ、土日に入ってしまった。EMSは土日でも配達されるかと思ったが来ない。さすがに月曜には、と思ったがやはり来ない。

税関をクリアして喜んだので、この最後の引き延ばしがこたえた。高い料金払ってEMSにしたんだ、カネ返してくれ、と言いたかった。日本からイスタンブールまで4日で来たのに、イスタンブール市内で私のところにくるまで何で7日(税関を出てからは5日)もかかっているんだ。

EMSの追跡記録。EMSは、現在どの辺に到達しているか逐一記録をウェブ上で追える。今回のEMSは3月22日に大阪で投函され、3月27日にイスタンブールに着き、通関後、29日には税関の郵便局から発送されたことになっていた。下記の通り、実際はそこに留まっており、私が出向いて4月4日に入手した。

税関郵便局にあった

ウェブをいろいろ調べた。トルコ郵便局独自の追跡サイトがあるのに気付いた。日本からのEMSも番号を入力すると検索できた。日本側の追跡記録とほぼ同じだが、最後のところが、Being held by post officeで終わっているのが気になった。税関を出て郵便局管轄に入ったことを意味するのかも知れないが、郵便局で止まっている可能性もある。郵便局名も出ていたので(INTERNATIONAL PİM/BAŞAKŞEHİR GÜM.AMB.CARGO DEB.CHEF.)、ウェブで調べ月曜の夕方に出かけた。

トルコ郵便局の追跡サイト情報。

なんと、そこにあった。EMSだよ、届けてくれるんじゃないのか。しかも、関税420リラ(約3000円)を払えという(他に諸税で24.20リラ)。何だよ、関税はゼロだと書いてあるじゃないか。(ゼロは、まだ払ってないという意味だったらしい。)

しかし、やっと愛機が手に入るなら、これに勝るものはない。3000円何するものぞ、とクレジットカードを出すと、キャッシュでなければだめだと言う。こういう時に限って現金を切らしているものだ。なぜか最近、現金を少なくすることに喜びを感じていた。

ATMでおろしてくるぞ。え、外か。待ってろ、すぐ戻る……。だめだった。この日、昼の配達がないのを確認して夕方に来ていた。5時ぴったりで税関郵便局は締まる。閉めるドアの方に追い立てられた。「ホテルの方に郵送してもいいぞ」と係員が言う。

「何日かかる?」

「2日、かな。」

これ以上待てるものか。「明日取りに来る」と言って税関を出た。せっかく荷物が出され、ブツを確認し、あの懐かしい前の愛機と同じ形のパソコンを見たというのに、またお別れだ。

外国からイスタンブールに送られてきたEMSは、この税関郵便局PTT Cargo International Customs Post officeに着くようだ(中央の建物)。一番手前の小さなドアから入って受領手続きをする。日本語では国際交換局というらしいが、関税を徴収する機能も果たしているようだ。

カフカの新作『郵便』

そして、翌朝早く行ってついに受領にこぎつけたのだが、詳しい事情は後段の方に記す。一晩、間を置くことで私も少し頭を冷やすことができたのでよかった。ウェブで状況を探ると、トルコの税関や郵便局で国際小包の受け取りで苦労した記事がたくさん出てくる。例えば、バーバラ・アイセンバーグさんが「トルコの郵便局でどう小包みを受け取るか」というブログ記事で次のように書いていた。痛く感心した。

「もしフランツ・カフカがイスタンブール税関事務所で小包を受け取りにいくことになれば、もう一本、小説がかけるだろう。『城』や『審判』と同様、恐ろしくかつ混沌にあふれた小説『ポスト』(The Post)を書き下ろすに違いない。」

「城」(The Castle)に行こうと思ってもなぜか着けない、その奇怪な物語をカフカは書いた。それと同じように、自分宛の荷物になかなかたどり着けない混沌を、バーバラさんのように冷静な目でみる姿勢が必要だな、と教えられた。

彼女も書いているが、自分宛の小包の番号は自分ではわからず、送り主に問い合わせなければならない。そして税関に小包が届いていることの連絡自体がない。彼女は3週間もほったらかしにされたそうだ。この、税関に来て関税払えとの連絡がないことを、彼女は、真っ先の怪奇事象にあげている。事務所に電話でコンタクトしたり、受け取りに行ってからもいろいろ右往左往させられるが、何よりもこれが最も奇妙だ。私も、こちら側から積極的に調べてトルコ郵便局の追跡サイトにたどり着かなければ永遠に待ち続けるところだった。

(幸いにも、これは少なくとも現在は、誤解だったことが後で判明。私が荷物を受け取りに行ったその日に、宿の方に、税関郵便局に来るようにとの知らせを郵便屋さんが届けてくれた。むろん、荷物が空港に着いて5日後にそういう通知が届くというのはEMSとしては失格だが。)

幸い宿の近くにはマルマラ海に面した広い公園があった。そこを毎日散歩することにより、25日間、身体的・精神的な健康を保つことができた。イェニカピ海浜公園。海には多くの貨物船が錨を下ろしている。遠くに高層ビル街が見える。ボスポラス海峡をはさんだ対岸のアジア側だ。

4日で届いたケース

アマゾン日本+DHL。商品は外付けキーボード(重量280グラム)。商品値段1,709円、配送料・手数料2,823円、輸入税等前払金1,360円、計5,892円

アマゾン日本からのキーボー送付は4日で届いた。3月13日(月)に注文して翌日には「出荷しました」になり、その後、配送業者のDHLを通じて成田の配送店に到着、香港に到着、ドバイに到着など、移送地が次々に表示・連絡され、17日(金)朝にはイスタンブール空港に着いたのがわかった。速いな、と思っている間もなく、その日のうちに「配達完了」と表示された。え、通関も終わったのか。半信半疑にフロントに出てみると、マネジャーが「おお、来てるぞ」てな風に小さな段ボール箱を渡してくれた。

世界のどこで何を盗まれても怖くない

土日を挟まなかったのも影響していると思われるが、日本国内への小包でも下手すると4日くらいかかる。「スピードこそ命」とむきになって送られたように感じた。従業員の労働負荷を心配するが、迅速なシステムを確立している点を評価したい。特に旅先の盗難で困っている身には極めて有効なサービスだった。

総額(5,892円)でもこちらで英語版キーボードを買うのとほぼ同じ値段だ。ウーム、と唸った。アマゾンは中古も扱っている。これなら世界のどこに居ても迅速に日本の商品が普通に手に入る。もう、どこで何を盗まれても怖くない?

スマホとキーボード、結構使える

キーボードが届いただけでも、「スマホ+外付けキーボード」方式でかなり使えることがわかった。こんな小さなスマホでも大きなノートパソコンとほぼ同等のことができるのは素晴らしい。寝転がってウェブ三昧、など、ノートパソコンではできない使い方もできる。画面が小さいので、画像を使ったりなどの複雑なことはやりにくいが、ひたすら文章をうつ、などのことはキーボードに慣れればかなりできる。画面が小さくて見にくい点は、スマホをキーボードの手前においてタイプする配置である程度改善されることがわかった。

このおかげで、パソコンがなかなか来なくても、物書きはかなりできるようになった。ブログをある程度書き進められたのはそのせいだ。

スマホとノートパソコンの連携。この分野で何か面白い変化がうまれそうだ。普段スマホで使っているが、家に帰ってくると、キーボード他の周辺機器接続体に差し込むとフル装備パソコンに早変わりする、とか。

輸出代行業者がヤフオク購入を代行してくれる

時間はかかってしまったが、前にも書いた通り、輸出代行業者がオークションでの購入を代行しているというサービスの価値は確認しておきたい。ZenMarketという輸出代行業者を通じて、ヤフーオークション(ヤフオク)で1万円の中古パソコンを購入した。いろんなオンライン店舗で購入してくれるだけでなく、ヤフオクの面倒なオークションも代行してくれるのだ。そしてそれを輸出のプロが代行して海外に送ってくれる。普通ならオークションで競り落とした商品は国内の家などにしか送られないから、これは便利だ。

ZenMarket社のサイトを通じてあたかも自分でオークションに参加しているかのように操作できる。しかし実際は同社が入札・落札した形になり、落札商品も同社倉庫に届く。ヤオフクの場合「即決価格」というのがあって、この額で入札すれば競売を素通りして即落札になる。急ぐ場合はこれを使った方がいい。

計25日かかったケース(EMS発送からは19日)

ヤフオク購入+ZenMarket+EMS。商品はノートパソコン(重量1380グラム)、商品値段9,980円、ヤオフク国内送料1,500円、ZenMarket手数料300円、EMS国際配送料6,150円(1.75キロ)、関税3,000円、計20,930円

経過は下記の通りだった。

  • 3月10日(金)5:33 ヤフオクで商品落札
  • 3月16日(木)12:36 商品がZenmarke倉庫に到着
  •    同日16:40 こちらから発送料など払い込む
  • 3月20日(月)12:04 梱包完了
  • 3月22日(水)11:55 倉庫から発送
  •     同日 12:31 大阪の集荷局が受け付け
  • 3月23日(木)1:13  大阪空港国際交換局に到着
  •     同日16:30 同交換局から海外発送
  • 3月27日(月)15:53 イスタンブール空港交換局着。
  •     同日16:04 税関に提出。
  • 3月29日(水)13:25 税関から返却。
  •     同日13:26 空港交換局発?。
  • 4月4日(火)同交換局で受領。

カフカを読み解く

どうしてこのような時間差が出たのかわからない。一方は税関をフリーパス。他方はそこでかなりのつまづきがあった。前述ブログ氏の言うようにカフカの世界だが、私の想像を交えて、これを読み解いてみよう。

最初は商品価格の違いで、課税と無税の違いが出たのかと思った。というのもウェブ上には、トルコの輸入関税は22ユーロ(約3000円)の商品までは免税という情報があったからだ(今でもグーグル検索すれば日英多くのサイトでそのような情報が出ている)。しかし、かの権威ある税務・会計事務所Ernst & Youngによると、トルコは2019年5月に、そのような免税枠は全廃したとのことだ。郵送などでトルコに入る物品に、安価なものでもそれに応じた関税を徴収する、ということになったという。免税枠は2011年に75ユーロ、2017年に30ユーロ、 2018年に22ユーロと下げられてきたが、2019年5月に全廃されたということだ。

税率についてもウェブ上にはいろいろ数字があってカフカ的世界だ。しかし、こういうのはおそらく品目によって違うのだろう。最も多い説で20%だったので、私の1万円の中古パソコンにかけられた420リラ(3000円)の関税は高いのではないか、と税関責任者に文句を言った。すると意外にまともに再確認してくれた。日本からの書類を見直し、為替レートを調べ、計算しなおして、「正しい。420リラだ」との返事。いったい税率はいくらなのだ、とさらに迫ると「30%だ」という答えが得られた。

なるほどこれでいろんな謎がわかってきた。1万円の物品に30%の関税で、私のパソコンへの3000円課税は正しかった。アマゾンの1709円商品は、免税枠以下だったので関税ゼロだったと思っていたがそうではなかった(低額商品でも課税される)。アマゾンは、あらかじめ税額を予測・計算して私から徴収していたのだ。商品価格1,709円の30%は513円だが、(念のため?)配送料・手数料2,823円を含めた4,532円を商品価格としてその30%、1,360円を「輸入税等前払金」として私から徴収していた(上記アマゾンの項参照)。それでぴったり計算が合う。アマゾン商品はだから税関をフリーパスのような形ですぐ出てきたのだ。各国税関とそういう前払い方式で了解を取っているのかもしれない。ウーム、やるなアマゾン。そこまで効率化、迅速化をやるか。

泥棒被害は、結局、こうして補充品を待つ間の時間(宿代などの滞在費)が最も高くつくことになったかも知れない。しかし、それでいろいろ勉強させて頂いた。感謝しなければならない。そもそも、これまで70年以上も無駄に生きてきて、ここでまた1カ月無駄にしてしまってどうの、などと考える方が間違っておる。

2012年発売の私にとっては最新型のこの1万円パソコンは、メモリ8ギガ、SSDディスク、Windows11に更新されており、非常に調子がいい。税関から持ってきて、さっそくWindowsアップデート、各種ソフト・インストール、データ移行その他調整を行なうのは楽しかった。税関職員が言ってくれた通りhave a nice dayにすることができた。