相生山緑地のホタルがピークに

名古屋市天白区、相生山緑地のヒメボタル群棲。5月中旬から6月中旬まで見ごろになる(年によって少しずれるので、要現地情報確認)。Photo by Kazhidegu, from Wikipedia Commons, (CC BY-SA 4.0) 。プロの写真家の方が撮るとこのようになる。本格的なカメラで間隔を空けて連続撮影したものと思われる(スマホ写真の素人には詳細不明)。これほどのものが見えるわけではないのであしからず。
相生山の緑。天白渓谷対岸の表台公園から見たところ。

朝起きると、窓から天白渓谷の対岸に相生山(あいおいやま)緑地が見える。強い日光に照らされて緑が濃い。あの森にきょうも行ってみよう。

そうやって、住民運動によって残された124ヘクタールの緑地に出かけるが、最近は夜行っている。5月中旬からヒメボタルの最盛期がはじまったのだ。相生山緑地は、都市域内でヒメボタルの乱舞が見られる名古屋ばかりでなく全国でも珍しい場所なのだ。地下鉄駅から歩いていけるヒメボタル鑑賞地など、確かにあまりないだろう。ホタルたちの活動は夜1時頃がピークで、午後10時頃から光の舞いがはじまる。どうせ毎晩天白川堤防をジョッギングしてる身だ。毎夜、この森まで走り、深い闇に包まれた木々の間をさまよう。

最初、この貴重なヒメボタルは、ごく限られた特別な場所にしか居ないと思っていた。しかし、この1か月の最盛期には、相生山のほとんどあらゆる所に居る。山の上の森蔭にも居るし、意外と森への出入り口付近にも多い。低地気味で湿気があるからか。外縁の道路からも二つ三つ光が見える所もある。ヒメボタルは、水辺に集中する他のホタルと違い、ある程度山の上、森の中にも生息するらしい。

昼にも行って山道を歩き、相生山の土地勘を付けておく必要がある。夜、ホタルたちの中で懐中電灯をつけるのはご法度だ。遠くからここまでホタルの写真を撮りに来るカメラマン、カメラウーマンたちにも迷惑になる。暗くとも何とか道は見えるものだ。月がなくとも、曇っていても、いや曇ってればなおさら、都会の明かりが雲に反射して、山道がうすぼんやりと白む。猛獣は居ない。山の中では就寝中の鳥が突如飛び立つ音にびっくりするが、もののけではない。

ホタルは山全体に居るが、やはり低く湿った場所がヒメボタルの集中場所だ。相生口から稲田口に至る低地帯が「ホタル銀座」だ(私の命名なので誤解なきよう)。一応川筋にあたるが水はない。大雨が降った時だけ川になるようだ。その中でも稲田口に近い小川域がやや広がっているあたりが極上の場所だ。この低地一帯には、建設中止になった幹線道路がすぐ近くまで来ている。完成していたらこのホタル銀座は完全に破壊されていたろう。相生口から入る人が多いので、「極上の場所」まで来ない人が多い。穴場なのでぜひ行って欲しい。無数の光が点滅し、乱舞し、壮観だ。しばし時を忘れて立ち尽くすだろう。

相生山緑地の地図 ホタルの多い場所

ヒメボタルが多く見られる場所を図示した。© OpenStreetMap contributors, CC BY-SA。相生口、山根口以外の場所はほとんど人が来ないので、穴場と言えば穴場。しかし、特に相生口から稲田口にかけての低地帯が「ホタル銀座」で、特にその稲田口に近いあたり、ちょっと小川域が開けたあたりが最も壮観。一般的には稲田口から入るのが普通で、人もその辺が最も多い。赤丸印あたりまで行くにはちょっと足場が悪い。昼の間に土地勘をつけておくことをお勧めする。時間は夜11時過ぎから。なお、時期によってもホタルがよく見られる場所は若干の変化があるようだ。このサイトにも詳しい説明と地図がある。

ヒメボタルの点滅は独特だ。ピカッピカッと小気味よく光る。派手さを好む現代人に向いている。まるでクリスマスツリーの点滅のようだ。河岸や森の木々に小さいライトが点滅するイメージ。ゲンジボタルやヘイケボタルのようにふわーふわーと光るホタルもおつなものだが、こういうパッパッと点く光も壮観だ。

いや、正確に言えば、クリスマスツリーというには、ちょっと光の間隔が間延びしているだろう。光の強さももちろん電灯ほどではない。しかし、夜目に慣れてきた目には時にまぶしく感じるくらいの光だ。こんな光の点滅と乱舞が、まったく音を立てず、静寂が支配する深い闇の森で展開している。実に不思議だ。

森にはたくさんの写真家が繰り出している。ブログ記事などを見ると、東京など遠い所から来る人も多いようだ。それと私らのように、ただただ鑑賞に来る人、デートに来る人も。昼は、この相生山を含めて周辺の緑地を歩いて、人に出会うことはあまりない。しかし、この時期夜に相生山に行くと人がいっぱい居て「蜜」になる。こんな深夜の山でようやくマスクが必要になって取り出す。

人出はやはり、ホタル銀座に集中している。土地勘がないと夜の森をさまようのは難しい。比較的歩きやすいし、ホタルも多いので、とりあえず銀座を目標にするのも順当だ。出入口付近も意外と多いので、そこで満喫してもいい。ただ、写真家を含めて相生口近くに固まってしまっている傾向があるのでもったいない。もう少し進んで、「極上の場所」まで行くのが私の一押し。(いや、隠しておくべきか。)

私が短パンはいて暗い山道をスイスイと歩いていると、後からついてくる人がいる。この人は道をよくわかっているようだ、と思ってついてくると思われる。なるほど、夜道がよくわからない人は、このような現地人っぽい人が来たら、首尾よく後をついていくのがいい作戦かもしれない。

ホタルは、雨の日の翌日が多い。やはり湿気を好むからだろう。同じ理由で川筋や出入口付近に多い。しかし、結構山の上にも居る。乾燥が続くとホタルの数は減るが、それでもホタル銀座に行けば一定数は居る。温度の高い日、風が少ない日に多い。しかし、ある程度風があっても森の中は風が遮られるので大丈夫だと思う。専門家が調査したところ、満月の夜が一番確認数が多かったという。不思議だ。明るい所ではあまり見ないのだが。

とにかく、山全体にこんなに居るというは不思議だ。同じような環境に見える他の緑地に行っても見ない。ここには幼虫のエサになるものが多いのか、たまたま群棲してしてしまって弾みがついたか。はたまた人間たちへのサービスか。見学の人間が多いので、鳥などの天敵から守られるからか(うん、これはありそうだ)。緑地の外に出ると、住宅も近い辺りに別種のホタルが少し居る。フワーフワーと弱く光るのでゲンジボタルかヘイケボタルだろう。

ホタルが光るのは交尾の相手を誘うためという。メスは飛べず、草などにとまったまま。見学者のまわりにもさまよってくる光はオスだ。ホタルは1年のほとんどを幼虫として(ヒメボタルの場合)落ち葉の下や土の中などに過ごし、夏の初めに2週間ほど成虫となって光り、交尾し産卵して死ぬ。ホタル(成虫)になっている間は水を飲むだけで何も食べないという。大変なお仕事をされているものだ。

相生山緑地の入り口(山根口)。山根小学校の近く。ここから入ってもホタルがよく見られる。左に行っても右に行っても。緑地の北半分が行政と市民の協働で「オアシスの森」として整備されている。
山根口のやや上(南)にある相生口。ホタル観賞にはここから入るのが普通。建設が途中で中止された幹線道路の入り口に塀が設置されている。その右側から山道に入っていく。(ここにトイレもある。)
相生口を入るとこんな山道を下る。竹林が美しい。この辺もホタルが多い。
明るいうちからカメラを準備する写真家たち。山根口近くで。
相生口から水なしの小川沿いを進んでたどり着く最高のホタル観賞地。視界がやや広くなっている。稲田口にも近い。ここまでの道は足場が悪いので、昼のうちに慣れておいた方がよい。
ヒメボタルの光。これでも、近距離でとらえた秀作。どんなきれいなホタル景観でも、素人がスマホで撮るとこうなる。遠くのホタルはまず映らない。
中にとりわけ強く光るホタルが居たので、おきてを破り、懐中電灯で照らして撮影。なんだ交尾しているところか、邪魔してごめん、とすぐ退散したが、帰ってよくスクリーンで見てみると、どうもこれはクモ(白色)に食われているところのようだ。最後の力を振り絞って光っていたか。クモはホタルの天敵だという。かわいそうに、助けてやればよかった、と思ったが、クモだって食べなければ生きていけない。えこひいきをしては悪いか。
相生山緑地はこんな山道が至る所整備されている。昼間も歩いてみよう。
相生山緑地の南半分も自然の森になっていて、ある程度山道を歩ける。森を歩いていたら突然こんな畑地が開けてびっくりした。これが名古屋市の住宅街の中だとは思えない。
緑地南端(地下鉄駅に近い方)は山村的な住宅地になっており、その一角にこの徳林寺がある。他に相生山神社などもある。森ありホタルあり寺社あり。住宅街の中で最高のハイキングが楽しめる所だ。

【2021年6月 追記】

現在米国在住中だが、日本に残っている家族からの便りでは、今年の相生山のホタルはあまり多くなく、私の紹介した「ホタル銀座」も寂しい状態だという。私の上記情報の影響か、ホタル銀座が「人銀座」のようになってしまっているとのことだ(「相生山 ホタル」で検索すると、この記事が上に出てくる)。秘密にしておけばよかったとも言われるが、見学に来る方々は決してその辺を踏み荒らしたりしない人たちだ。気象か何かの影響と信じたい。だが、ホタルたちは、人の居ないところを探してひっそり光っているのかも知れないと考えるのも楽しい。

【2022年5月22日 追記】

2022年5月22日の夜、5月には珍しくカミナリが鳴り夕立に。これならホタルが出ているかも知れないと思い、翌23日の夜11時頃、相生山に行った。いっぱい居た。ほぼ最盛期と言っていいのではないか。いつ頃から出始めたのかわからないが、5月初旬に行ったときは一匹も見なかった。

月曜の夜だったせいか、人出はそんなに多くない。しかし、確かに2年前に比べて森の奥、「ホタル銀座」付近にまで人が居た。でもどうなのだろう。土地勘がないと暗闇の中でそこまで行くのは相当難しい。途中、懐中電灯をつける人も居た。確かにつけないと危険だし、ホタル生息地に迷い込み荒らす可能性もある。でもつけるとホタルにとっても観察者・撮影者にとっても「光害」になる。相生口に近い竹林付近でもかなりホタルが居るので、そこに留めては。

稲田口から出て帰ってきたが、稲田地区では森近くの民家付近にもヒメボタルが舞っていたのにはびっくりした。都会の中でヒメボタルが舞う所に住めるとは何という恵まれた環境なのだろう。ひっそりした住宅地で、深夜に歩くだけでも気が引ける。ましてや車などで入って来るのは厳禁だ(駐車場もない)。

【2022年5月26日 雨の夜】

5月26日(木)雨。雨のときホタル生息地はどうなっているのか確かめたいと思い、11時頃相生山へ。確かにほとんど居なかった。光ってはいなかった。でも皆無というわけではなく、少しは居た。普段の10分の1程度か。

雨の日は、曇りの日と同じで、都会の光が雲に反射し若干明るい。谷沿いの小道は至る所水たまりだったが、それが見定められるくらいの薄明はあった。晴天の夜の真っ暗闇に比べて返って歩きやすいくらいだ。

ノウハウ:ホタル生息奥地には曇りの夜に行け。

ホタル銀座の最もホタルの多い地点(さしずめ「銀座四丁目」)には意外にも一匹も居なかった(光っていなかった)。光の乱舞が見られるあの光景はなし。森がやや開けた場所なので雨が直接かかるからだろう。来る途中、わずかに光っていたホタルたちは草木の茂みの中に隠れていた。

雨足が強くなると森の中の光もほとんどなくなった。ヒト属など哺乳類も私以外だれも居なかった。

天気が回復する明日の夜はすごい光の乱舞になるだろう。金曜の夜だから人手も。

【近くの公園でキツネを見た】

2022年5月28日夜10時頃、相生山緑地からさほど離れていない「天白川であい公園」(天白川と植田川の合流地点の公園。相生山から北西に2キロ)でキツネを見た。天白川に沿った遊歩道を走っていると、前に小動物が居て、私を見ると石垣の上に登った。10メートルくらの距離から10秒ほど互いに様子を見合った。体型は小型犬のようだが、とんがった目鼻や上に突き出た耳などからキツネとわかる。私が柔軟体操を始めると公園の中の方に消えていった。

名古屋市では、北東の守山区・庄内川沿いなどにキツネの生息が確認されている。天白区でも野並などでも目撃されているようだから、相生山も射程に入っているだろう。いや、2018年に相生山付近でキツネの死骸が発見されている

昨年あたりにも「天白川であい公園」でキツネらしい動物を見た。今回まじまじと見つめ合い、はっきり確認した。(私は名古屋在住時には、週2,3回、夜にこの公園や天白川堤防をジョッギングしている)。天白区には昔からキツネに関連した民話もあり、もともとの住人が戻ってこられたということかも知れない。

川に沿い山の方から下りてきているのだろう。下水処理場の上につくられた天白川であい公園は、かつては野良猫の楽園で、まったりまったりした10匹くらいの猫が、住民からエサを与えられて暮らしていた。最近ほとんど見なくなったのはキツネに食べられたからか。

キツネは小動物の他、昆虫類も食べるという。相生山に本格的に進出してきたらホタルたちにも影響があるのか。相生山は天白川から少し離れているが、最近のキツネは道路なども横断して移動するという。遭遇した感じでは、人を襲うようには見えない。しかし、エキノコックス症など感染症に関わるとのこと。夜行性の動物だ。相生山探索時には心の隅に置いていたらいい。