ニューヨークに行ったらチャイナタウンや中南米系の街をしらみつぶしに歩き、不動産屋を片っ端から当たるつもりでいた。しかし、実際にはネット検索中心の闘いとなった。あの広大な(マンハッタンの)チャイナタウンを歩いても一般向け不動産屋さんをほとんど見ない。日本のヤフーオークション(ヤフオク)に相当する個人間の売り買いサイトCraigslist(クレイグズリスト)でのアパート探しが次第に中心になっていった(オークションではなく、個人間で実際に会って取引する点などがヤフオクとは違う)。そこで、月300ドルの「シェア」の部屋を見たのが運の尽き。私の未来はこれしかないと確信し、息子夫婦のアパートに寄宿しながら、ネット検索闘いの毎日となった。
しかし、クレイグズリストというのは連絡してもなかなか返事が来ない。ウェブ情報によると、問い合わせの9割に返答がないという。先方が選り好みしているか、すでに決まったのに掲示取り下げをしてないか、あるいは単に怠惰で対応散漫になっているか。私にしても、先方から留守電への返答を気づかず2日間ほったらかしたケースがあった。素人間のやり取りで、頼りにならない面がある。加えて、クレイグズリストには詐欺が多く、その中でもニューヨークのアパート物件紹介というのは最も詐欺多発の領域という。ここの賃貸市場がそれだけ厳しい状況になっているということだろう。
やっと連絡が付いても「信用」の問題が出てくる。日本でも高齢者がアパートを探すのは大変だが、私のような外国から来た者は米国内の信用情報(credit history)がない。決定的に重要となる「定職」もない。年金をもらっているならその証明を、と言われても、日本のあの3種(私の場合プラス・アメリカの年金で計4種)の年金の証書を英語でつくってもらうなど、どうやったらいいか考えられない。戸籍制度のないアメリカでは実名主義のfacebookを通じての本人確認が多用されているようだが、私はこれをほとんど使っていないのでやはりアウト。さらにクレイグズリストの場合、モノの売り買いなら後腐れがなくてまだ良いが、いっしょに暮らす人探しとなると、とんでもない人に当たって苦労をする経験がよくあるようだ。人選びに事の他慎重になるのは、まあやむを得まい。モノの売買でも、実際に個人間で人と会うので、変な人に自宅を知られたくないという用心など、心配のタネは尽きない。
個人間で旅行者を泊めあうAirbnbのサイトも、1日10ドルなど、安アパート・レベルの料金があるので大いに期待した。だが、これも登録手続きが恐ろしく大変だったわりには(携帯電話加入、ID写真送付、専用アプリでの現在の顔写真撮影・送付など)、いざ予約しようとすると、安宿は長期に渡りほとんどふさがっており、まるで役に立たなかった。ただし、こちらには一般宿サイトと同様、多数の利用者レビューが付く他、問い合わせにちゃんと返答しているか、何時間で返答しているか、なども表示されることに好感をもった。(短期宿泊用のAirbnbでアパートを探そうという魂胆がそもそも間違っていたという面もある。)
日系不動産会社や日系情報サイトは高いアパートしか扱っていないので当てにしていなかった。だが、家賃上限を600ドルに引き上げて探しはじめた段階で日系サイトも調べはじめた。するとある程度、安物件も紹介していることが判明。結局、MixBという日本語サイトで(日系不動産会社を介し)適切なアパートを見つけることができた。同サイトは、アパートに限らず生活全般に関し、情報の量、鮮度の面からかなりお薦めだ。
私のアパートのオーナーもそうだが、日本人だとあまり騒がず部屋をきれいに使い信用もある程度あるということで、日系不動産会社と契約するアメリカ人家主が一定層いるようだ。確かにその通りで、私もそういう品行方正な日本人の伝統の恩恵に浴して物件を見つけることができたと思われる。まあ、これもえこひいきということで差別だが、助けられたのは事実だ。日本でも、最近は私のような高齢者の場合、孤独死やゴミ屋敷化の問題が出ているのだが、もちろんそんなことはだまっていた。