マヨン火山がよく見える場所(レガスピ近辺)

マヨン火山
フィリピン・ルソン島南部のマヨン火山。カグサワ教会跡から。

フィリピンの旅

フィリピンの旅に来ている。熱暑地獄の日本から来たら、確かにフィリピンは涼しい。マニラは連日大雨だったが、涼しく、日中外を歩いても喉がかわかず、夜は冷房なしでちょうどよかった。セブを目指して、ルソン島南部ビコール地方のレガスピ(Legazpi)まで来た。雨は降らず、日が差すと暑いが、それでも32度前後だ。

ここには、富士山と同じ、いやそれ以上に均整の取れた成層火山「マヨン山」(Mt. Mayon, 2362メートル)がある。葛飾北斎が「赤富士」で描いたような鋭くとがった火山だ。北斎の赤富士図は幾分デフォルメして描いているだろう。しかし、マヨン山はこのデフォルメ富士そっくりだ。この地方の人が北斎「赤富士」を見れば「マヨン山を描いたんだ」と言うに違いない。

File:Red Fuji southern wind clear morning.jpg
北斎の赤富士(葛飾北斎『富嶽三十六景』の「凱風快晴」)。Wikipediaより、public domain。

この雄姿をどこから見たらよいか、そのノウハウを短い滞在から取得したので報告する。

ビコール地方を象徴する名山だが、レガスピの街から簡単に見えるわけではない。いや、見えるのは見えるが、その全貌を感動的に眺められる場所は限られている。建物や木々や電線に隠され、山の一部だけしか見えない。郊外に出て行って田んぼのあぜ道のようなところがあれば、簡単に見えそうだが、レガスピの街(人口20万)は小規模都市のようで意外と郊外まで家がある。さらに火山性傾斜地なので田んぼがあまりない。なかなか視界が開けない。それに郊外に行くと犬に吠えられる。フィリピンの街中の犬は完全に覇気を失い、人目を恐れるように暮らしているが、郊外に出ると別だ。ある程度番犬として期待され、本来の獰猛性を取り戻している。

ファイル:Mt. Mayon aerial photo.jpg
空から見たマヨン山。マヨン山は雲に隠れたり、雨が降ってまったく見えなかったりすることが多い。このようにドラマチックな姿をとらえられるのはまれ。Dexbaldon氏撮影。Wikipediaより。CC BY-SA 4.0

1、戦没者慰霊塔の南側から

まず基本は、街の中心からのこの眺め。建物に遮られて決してよくは見えないが、十字路に立つ街のシンボル「戦没者慰霊塔」の背景に姿が見え、絵になる。Quezon AvenueとRizal Avenueの三差路あたりから見る。宿もこの近辺に取ることが多いだろう。ビコール地方は年間を通じて湿気が多く、8月もマヨン山は雲に隠れていることが多かった。まずここから頻繁に山を確認して、珍しく雲が切れかかっている、という時が来たらしかるべき景観地点に急行する。そのための補助観測地点と位置づけられる。

レガスピの中心、戦没者慰霊塔の南側から見たマヨン山。早朝なので道路にあまり人出がない。         
mt mayon
昼間(夕方)はこんな感じ。これでもマヨン山、かなりよく見えている方だ。

2、公共市場の2階裏手から

景観が建物に遮られると言っても、アパートやホテルの屋上にでも上がれば一応は見えそうなものだ。しかしポッとやってきた旅行者が、眺めのよさそうなアパートの屋上に勝手に上ることはできないし、安宿専門組には、ホテル屋上からの景観も期待できない。身近なところで、部外者がましな景観を見られるところを探したところ、公共市場(Public Market、市中心部の巨大モールAyala Mallの裏手、Pacific Mallにも近い)の2階裏手からの景観がある程度優れていた。汚いところで臭いもあるが、短時間に何とか写真一枚でも、という場合にはここで我慢しよう。

マヨン山
公共市場の2階裏手から見たマヨン山。時とアングルを選んで素早く撮れば、一応それなりの画像が残せる。しかし、この場所は汚かったぞ。

3、レガスピ港の南側埠頭突端から

私の見た限りレガスピ市内のマヨン山景観としてはここが最も優れていた。市中心部から東に500メートル歩くと港があり、そこからずうっと港を半周するような感じでLegazpi Blvd.を南、さらに東に歩き、外洋にぶつかる所で北に延びる埠頭を突端まで行く。計1.5キロほどの適度な散歩コースとなる。三保の松原からの景色のように、海を挟んだ対岸に優美な富士、いやマヨン火山の全貌が見渡せる。裾野の広がりもよく見える。

前述の通り、この地方は湿気が多くマヨン山はほとんど雲に隠れている(比較的雨が少ないのは2~5月のようだ)。ここまで歩いて行っても無駄、という場合が多い。市中心部から山の様子を確認してから行く。早朝が最もよく見えるようだ。朝が苦手の私も、夜明けと共に起きて、ここに向かった。おかげで健康な生活ができた。日が少し高くなるとすぐ雲が出る。しかし、一般化は難しく、昼間でも雲が薄くなるときはあった。

マヨン山
レガスピ港南側埠頭突端から見たマヨン山。早朝に何度も行ったが、これが最良。雲の問題だけでなく、大気中の水蒸気、光線のかげんも鮮やかさに影響を与える。

4、カプントゥカンの丘から

マヨン火山の絶景としてKapuntukan Hillが有名だ。レガスピ港の南にそびえる小高い丘。レガスピ市街を含めたマヨン山の全貌がよく見える。「地球の歩き方」にもそう書いてあるし、実際、地元の観光案内書などにも、ここから撮ったと思われる景観が大きく扱われている。

しかし、実情は、けもの道のような山道を登らねばならず、ほとんど人は行かない。頂上も木々に覆われ、必ずしも眺望がいいわけではない。写真家はよほどの工夫をして奇跡的に絶景を撮ったと思われる。しかし、木々伐採ほかで状況は変わるかもしれないし、何とか奇跡に挑戦したいご仁も居るだろうから行き方を下記に紹介しておく。

マヨン山
カプントゥカンの丘からのマヨン山とレガスピの街の景観。マヨン山は雲に隠れていたが、可能性としてかなりの絶景が見られそうなことはわかるだろう。現状では頂上付近まで木々に覆われ、眺望が開けるところはほとんどない。
港の南半分をめぐるLegazpi Blvd.を歩いていくと1カ所だけ丘の方に登る分岐道がある。これがカプントゥカンの丘に登る道だろう、と早合点して進んでいくと上り坂はすぐに下り坂になり、丘の反対側に出てしまうだけだ。
その分岐道の登りが下りになるあたりで左手を見ると、柵の向こうに何やら小道があり、丘裏手中腹の集落につながっているようだ。柵を越えて入るなど申し訳ないが、入る他ない。
すぐ小道の分岐点があって、右に行けば集落。左に行けば丘の上に行ける。ほとんどけもの道でゴミ溜めなどもあり、こんな所でいいのかよ、と不安になるが、そこを行くほかない。
10分ほど歩くと、何じゃい、木戸があるじゃないか。だれかが住んでいるのか。カギはかかってないので、かまわず入る。
げ、家があったぞ。不法侵入者と間違われズドンとやられるのか。ハローハローと声をかけながら行きましょう。幸いだれも住んでいない廃屋だった。
レガスピの街
その廃屋の後ろ側にまわると、わずかに木々が伐採されているところがあって、眼下にレガスピの街と遠景にマヨン山が見える。あいにく雲にかかっていたが。条件がそろえば、絶景になることはわかるだろう。

5、ダラガ教会の右手から

これはレガスピ市外になり、ジプニーで行かねばならないが、ここからの景観は見る価値がある。レガスピ市からダラガ(Daraga)市に行くジプニーは、「ここのジプニーは全部がダラガ行きか」と思うほど多数出まわっているので簡単につかまえることができる(心配な方は、街の中心、戦没者慰霊塔の近くのLCCモールの前に行けばよい。ダラガ行きのジプニーが多数停まる)。7ペソ、20分程度でダラガに着く。ジプニー内で「Daraga Church」とわめいていれば、運転手や乗客から「ここで下りろ。教会はあっちだ」と指示が来る。大きな街ではないし、ダラガ教会は市内の高台に鎮座する有名な教会なので、まず迷うことはない。10分歩けば着く。石造りの堂々とした教会で、1773年築。1814年の大噴火にも耐えて、現在も使われている。有名史跡なので、マヨン火山を眺めるためだけに行っては恐れ多い。

この高台教会の右手にマヨン山と広大なその裾野の眺望がひろがっている。崖ぎわに野外レストランもあるが、昼は営業していなようなので、入り込んで写真を撮らせてもらった。高台からの眺望なのでまさに絶景だ。

ダラガ教会からのマヨン山。
ダラガ教会からのマヨン山。霞がかかっていたが、空気が鮮明な時はまさに絶景だろう。
ダラガ教会。レガスピ市に隣接するダラガ市にあるカトリック教会。1773年築。

6、カグサワ教会跡から

カグサワ教会跡は、マヨン山と関連してこの地方で最も有名な史跡だろう。多くの観光客が来ていた。1814年2月1日の大噴火で、ここにあったカグサワ村が消滅した。人々はこのカグサワ教会(1724年に建てられたバロック調建築)に避難したが、そこも火砕流でほぼ埋まった。計2000人が亡くなったという。

カグサワは、レガスピの北西8キロ、ダラガからも約2キロ離れていて、マヨン山に近い。火口までの水平距離は11キロ。だからだろう、山容は一層迫力がある。ただし上記ダラガ教会跡のように高台にあるわけではないので、裾野の広大な広がりにはやや見劣りが。

私がここを訪れたのは夕方の5時頃だったが、わずかな時間だけ雲が少し晴れてくれた。ここで最良の山容写真が撮れたのは幸運だった。

ダラガとカグサワは近いので続けて行くことができる。ダラガまでは、上記の通り非常に簡単に行けるので、まずダラガ教会まで行って、そこからさらに北西に行くジプニーに乗るのがよい。Camalig, Guinobatan, Ligao, Polangui行きなどのジプニーがカグサワ教会跡(Kagsawa Ruins)入口を通る。これらのジプニーはいずれもレガスピから出ているので、レガスピから乗ってきてもかまわない(10ペソ)。

ダラガ市内では、一方通行があったりして、上記行きジプニーを見つけるのに苦労するかも知れない。ダラガ教会に近い通り(Gen. Luna Street)を西に行くジプニーは皆(折り返しで、東の)レガスピに帰るジプニーだ。少し戻った主要道Bicol 630とRegidor Streetの交差点付近(LCCモールとガソリンスタンドの間)にカグサワ方面行きジプニーは停まる。短時間客を待ってRegidor Streetを北方向に走っていく。

カグサワ教会跡(Kagsawa Ruins)入口も迷うことはないだろう。有名スポットなのでジプニーの中でちょっと口にすれば、運転手がそこで降ろしてくれる。「カグサワ」は家具沢か、と思うくらい日本語と音韻が似ているが、フィリピンの現地語は日本語と近い点があるようだ。アクセントは後ろの方に来て「サーワ」だけを強く発音する感じ。ダラガから10分で着く。沿道を見ていても「カグサワ教会跡まで1キロ」「500メートル」などと表示が出ており、現地入口には大きな立体型標識(下記写真)が出ている。そこから歩く、と聞いていたので大びんのミネラルウォーターを買い慎重に準備していたのだが、何のことはない、整備された舗装道を15分ほど歩けば教会跡に着いた。土産物店がたくさんあり、悪路走破体験の四輪バギー(ATV)を楽しむレジャースポットにもなっていた。

道路わきのカグサワ教会跡入口の標識。これだけ大きな標識が出ていれば、まず見逃すことはない。
カグサワ教会跡に行く途中、橋を渡る。円錐形の成層火山だから四方八方に放射状に川が流れることになる。河原は黒い火山岩でおおわれている。
途中に土産物屋もたくさんあるな、と思ったらここがカグサワ教会跡前だった。
カグサワ教会跡
カグサワ教会遺構。カグサワ教会は1587年創建。1636年にオランダの海賊に焼かれ、1724年に再建されたが、1814年2月のマヨン山の噴火で埋没した。残っているのは塔の部分のみ。カグサワ村も消滅し、生き延びた住民はダラガに移住した。
マヨン山
カグサワ教会跡から見たマヨン火山。11キロと近いので、迫力がある。教会跡のすぐ前で農民が田んぼ仕事をしていた。教会跡敷地は火山性の岩でごつごつしているが、すぐ近くにこんな農地をつくりだすというのは見事。しかし、この辺も再び大きな噴火があればあぶないだろう。周囲に多数の民家がある。
記念撮影用の顔出しボードもあった(有料)。住民の稼ぎ源になっているようだ。

フィリピンで2番目に住みよい街

もともとセブが目的で、レガスピに立ち寄る予定はなかったのだが、なかなか快適で安いホテルが見つかり、電子出版の仕事も若干しておく必要があったので、予定外に長居した。市中心部には、伝統的な市場もあれば、近代的な巨大ショッピングモールもあり、夜市には屋台街ができ、その横にバスケコートさえあり、マニラのように混雑しすぎておらず(人口20万)、人々も穏やかで、フィリピン適応訓練の地として絶好と思われた。その上に、マヨン山があるのだ。

なるほどと思ったが、レガスピ市は2014年に「最も住みよい市」でフィリピン2位に選ばれたという(フィリピン競争力評議会=NCCとアジア太平洋経済協力会議=APECによるMost Livable Cities選出)。マニラはもちろんセブよりも上だ(1位はバナイ島のイロイロ市、3位がセブ市)。この(2018年)8月には経済活動面の競争力でも、フィリピン中規模都市中の第1位に選出されたという。

レガスピ市はこの8月、フィリピンの中規模都市(component city)の中で産業面から最も競争力のある都市に選ばれた。市役所には、それを知らせる横断幕(右手)がかかっていた。(この裏手に簡素な市史博物館がある。)
マヨン山
追加になるが、ダラガとは反対方向、北の海側に行ったところにタバコ市がある。そこからもマヨン山がよく見える。レガスピ市からとは反対側のマヨン山を見ていることになる。レガスピ市からバスで約1時間。