マニラ・空港バスの怪

世界最悪の空港?

マニラ空港(ニノイ・アキノ国際空港)は2011~2013年に3年連続「世界最悪の空港」の評価を受けたことがある(sleepinginairports.net)。施設の不備、アクセスの難しさ、空港職員からの賄賂要求、空港タクシーのぼったくりなど、残念な体験談がウェブ上にたくさん載っている。滑走路の周囲に4つのターミナルが分散しているという構造(下記地図参照)から、特にターミナル間の移動が大変だ。国際線と国内線の乗り換えでターミナルを換えなければならないときは、下手すると乗り遅れる可能性もある。どこの空港でも、だれもが無料で乗れるターミナル間シャトルバスや高架トレインがあるものだが、ここにはない。ぼやぼやしていると、別ターミナルに行くためタクシーやジプニーで街に出て行かねばならず、まるで別の空港に行くようなことになる。

マニラ空港(ニノイ・アキノ国際空港)の地図。滑走路のまわりに第1(赤)、第2(オレンジ)、第3(緑)、第4(青)ターミナルが分散している。GreenPH at English Wikipedia (Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0).
第4ターミナルから、最も近い第3ターミナル(右手)を望む。直線距離で1.5キロ、道路を行くと迂回して4キロはある。

乗り換えの場合は無料シャトルがある

幸いにも、正式にマニラ空港で乗り換える人にはマニラ国際空港公団(MIAA, Manila International Airport Authority)が運行する無料シャトルがある。到着したらTerminal Transferなどのデスクに行って指示を仰ぐ。

下記ページは、フィリピン航空の乗り換え客に焦点を合わせながらも、同空港ターミナル間無料シャトルの全体像を示している(英語)。

PHILIPPINE AIRLINES AIRPORT TRANSFER GUIDE

空港公団以外にフィリピン空港も、第2、第3ターミナル間の無料シャトルバスを独自に運行している。同航空は第2ターミナルを専用ターミナルとするが、系列のPALエクスプレスが第3ターミナルを使っている。

第3ターミナルに着いたら

第3ターミナル(ANA便などが着く)から他のターミナルに行く順序について、下記のユーチューブ動画が詳しい(英語)。フィリピン航空の無料シャトルを使った時の例だが、空港公団シャトルでも同様。

日本語では下記のようなサイトがある。

マニラの空港でのターミナル移動について

マニラ空港ターミナル間の無料移動方法!もう無駄なお金は使わない

また、下記サイトは、ターミナル間移動から街への出方まで総合的に紹介している。https://www.yamatabi-hokkaido.com/manila201702/

その他にもいろいろなサイトで情報が提供されているが、割愛する。

第1ターミナルに着いたら

第1ターミナルは、JAL、ジェットスター、アジア系航空会社なども使用しているので、ここに着く人が多いだろう。しかし、このターミナルはなぜか警備が厳重で、チケットを持っている人でないとターミナル自体に入れない、など非常に不便だ。出迎えの人とはターミナルの外に出てからしか会えない。道路をはさんだ柵の向こう側で大勢の人がこっちを見ている。お立ち台の役者が観客に眺められている感じ。

第1ターミナルから他ターミナルに行く場合は、ターミナルを出る前にTransferデスクに行って、そこの待合所に入り、無料シャトルバスに乗る。乗り換えチケット(同ターミナル着便と別ターミナル発便の切符)を持っている人だけがシャトルに乗れる。両方の便名を記入させられる。

私の場合は乗り換えでなく、第1ターミナル近くのホテルに泊まっていただけだったが、同ターミナルから、羽田行きANA便が出る第3ターミナルに行こうとした。第1ターミナル到着便の切符はなかったわけだ。最初はだめだと言われ、ターミナルの中にも入れてくれない。しかし、時間がない、日本行き便の出る第3ターミナルにどうしても行く必要がある、とねじこんだら、中に入れシャトルにも乗せてくれた。融通を効かせてくれた。いつもこううまく行くとは限らないだろうが。

第1ターミナルのターミナル間無料シャトルバス発着所。

上記ユーチューブ動画にあるように、第3ターミナルから第2ターミナルへのシャトルは、空港敷地内(滑走路の隅)を移動しているようだが、私の乗った第1ターミナル発無料シャトルはそうではなかった。半ば一般道のような道路を通って第2ターミナル、第4ターミナルに寄り、その後、明らかな一般道(Domestic Road、次いでAndrew Avenue)に出て第3ターミナルに向かった。渋滞があった場合は遅れる。

第2、第4ターミナルに着いたら

第2、第4ターミナルに着いた場合も、上記シャトル他無料シャトルバスがいろいろあるので、Terminal Transferデスクに行くこと。とにかく乗り換えの場合は、外に出てから自分で別ターミナルに行こうなどと思わず(歩くの無理、バス利用困難)、必ずTerminal Transferデスクにコンタクトすること。

だれでも乗れるAirport Loopバス

以上は、マニラ空港で乗り換えする人、つまり乗り換えチケットを持っている人のターミナル間移動だ。では、乗り換えでない人はどうするのか。見送りや出迎え、後日の出発のため下見をしたい場合など、いろいろ別のケースがあるはずだ。

その時使うのがHM Trasnport社が運行するエアポート・ループ(Airport Loop)というバスだ。名前からこれがターミナル間移動の無料バスかと思ってしまうが違う。まずは有料だ。ただ、料金20ペソ(40円)だから大したことはない。それと、ターミナル間移動だけでなく、市内(空港外)にも連れて行ってくれる。都市鉄道のエドサ・タフト駅のパサイ地区行き(20ペソ)、南部方面行き長距離バスターミナルのある郊外のアラバン地区行き(50ペソ)など。

第3ターミナルに入ってきたエアポート・ループ・バス。ターミナルから道路を隔てた2つめのプラットフォーム右奥。
逆方向から見た第3ターミナルのループ・バス発着所。ループバスが来ていない時の風景。第3ターミナル(左)から出て道路一つ隔てたプラットフォームの右奥となる。その外側から撮った写真だ。スタッフのデスクなどがあり、ここで切符を買う(バス内で払ってもいい)。

このエアポート・ループ・バスが不思議なのだ。その存在がウェブ上できちんと示されていない。路線図、時刻表、運賃などのまとまった情報が、私の知る限りどこにも載っていない(http://directionsonweb.blogspot.com/2015/09/NAIA-Airport-Loop-Bus-Route-Guide.htmlなど利用者による情報サイトはある)。パンフレットもない。空港内にも、空港外の乗り場付近にも表示がない。来るバスには車体にAirport Loopと書いてあるので、それだとわかるが、どこ行きかは書いてない。いちいちスタッフに確かめなければならない。このバスの路線図はあるか、と聞いても「どこに行きたいんだ?」と逆に聞かれ、じゃあ、あのバスに乗れ、と指示されるだけで、なかなか全貌がつかめない。マニラ空港バスの怪。

乗り換え客のためだけの無料シャトルなら、一般向け情報をあまり出さないのは一応理解できる。しかし、だれでも乗る有料空港バスだ。これの情報提供をしないというのは頂けないし、理解できない。

それで、ひまにまかせ、何度もこのバスに乗り、用もないのにあちこちのターミナルを行き来し、その全貌にせまった。(乗り換え客専用のシャトルバスではこれができないので、調査不十分になったきらいがある)。すると、このループバスは、第3->第4->第1->第2->第4->第3ターミナルと巡回していることがわかった。実に不思議なまわり方である。第2ターミナルでも時間調整の長停車をしているようだが、一応起点は第3ターミナルだ。市内(空港外)のパサイ行き、アラバン行きのバスもここから出る。第3ターミナルは2008年にできた一番新しいターミナルだ。マニラ空港の中では評判がよく、交通アクセスもある程度整備されている。

ループバスは、上記の通り一定方向にグルグルにまわっているのではない。第2ターミナルと第3ターミナルの間は直接つながっていない。地図を見ると、確かにこの二つのターミナル間は滑走路に遮られ、直接行くのは無理だ。第4ターミナル経由で行くほかない。逆に第1と第2ターミナルの間は比較的近く、歩いても15分程度で移動できそうだ。ループバスは、第4ターミナルに2回寄ることになるが、ここは国内線専用ターミナルなので、国際線との乗り換えに便宜を図っているのだろうということで理解はできる。

第3ターミナルのループバス乗り場はターミナルを出て道路を越えた2つ目ホームの右端と決まっている。しかし、例えば第1ターミナルなどでは明確に決まっておらず、(2階出発階の外の)空いてるところに停まるので、来るバスをよく見ていなければならない。また、第4ターミナル(地上階)では、第1ターミナル行きと第3ターミナル行きが来るので間違わないようにしなければならない。

第3ターミナルからのループバス移動は比較的楽だ。一般道を通るが、国内線用の第4ターミナルに一乗りで移動できる。前述の通り市内のパサイ、アラバンにも行ける。ANAやセブ・パシフィックがこの第3ターミナル着。第1、第2ターミナルからも第4ターミナルへの移動は簡単だろう。

しかし第1ターミナルからのループバス移動は難しい。第2ターミナルにまで行くのはいいとしても、国内線の第4ターミナル、そして第3ターミナルに行くには、まず第2に行き、そこで長停車してから第4、第3の順に行くことになる。直接反対方向(第4方向)に向かう便はない。周りのスタッフに聞いても第4に行くループバスはないと答えるだろう。実際は第2経由でゆっくりとは行けるのだが。乗り換え客の場合は、ここで確実に専用の無料シャトルバスをつかまえる必要がある。

第1ターミナル(左)2階出発階前に停まったループバス。必ずしも同じところに停まるわけではない。空きのあるところに停まる。第1ターミナルに来るループバスはすべて第2ターミナル方面行き。

UBEエクスプレス

空港バスとしては他に、2016年からはじまった黒い車体のプレミアム空港バスサービス(UBE Express)がある。フィリピン交通省(DOT)と物流会社エア21の共同プロジェクト。モール・オブ・アジア、ロビンソンズ・ショッピングモール、マカティ地区、パサイ地区、クバオ地区、ロビンソンズ・ガラリアなど市内各所に直通バスを走らせている。残念ながら、300ペソ(600円)と料金が高い。半値など割引キャンペーンもしているようだが、ループバス(20ペソ)+都市鉄道(15~30ペソ)の方が断然安上がりになる。

黒い車体のUBEエクスプレス。

空港に着いた後の安宿確保

ターミナル間移動、街への交通手段も大切だが、結局は、空港に着いてどこに安宿を確保するかが、バックパッカーとしては最終的な重要課題となるだろう。以前(2016年1月)に私なりの解決法をウェブページに示しておいた。ループバスでパサイ地区に行き、そこの安宿街でホテルを決めればいい、という案。そして特に1泊305ペソ(600円)のロトンダ・ホテルを推薦しておいた。

今回もそこに泊まった。相変わらず格安でスパルタンな宿だった。料金は300ペソとむしろ下っていた。価値観にもよるが、興味ある方はどうぞお試しを。

どのターミナルに着いても第3ターミナル経由でパサイ地区に行ける。しかし、第1ターミナルに着いてしまうとやや不便だ。それで今回、第1ターミナル近辺の安宿も物色してみた。次のようなホテルがあった。

  1. Alicia Apartment (オンライン予約で$30程度)
  2. RedDoorz near NAIA Terminal 1 (同$24程度)
  3. Manila Airport Hotel(ターミナルに一番近いが、なぜかずっと「満室」)

やや安めの2に泊まった。Blancaflor Room Rentalという自営旅館が、RedDoorzのフランチャイズに入った宿のようだ(住所: 21 Verbena Street, Pasay, 1301 Kalakhang Maynila)。周囲の環境がいかにもフィリピンの下町コミュニティーという雰囲気でよかった。中は清潔で眺望もよく一応合格点。第1ターミナルから歩いて15分程度だ。ターミナル前方に見えるKFCの前を通り、大通り(Ninoy Aquino Avenue)の歩道橋を渡ってすぐの小道Verbena Streetにある。セブからの便が12時間も遅れ、到着が午前3時になった時も、スタッフがちゃんと起きていてドアを開けてくれたのに痛く感動した。高級ホテルなら当然なのだろうが。

この宿は、都市鉄道からは遠いが、ジプニーを使えるようになれば非常に便利なところにある。すぐ近くのニノイ・アキノ通りが幹線道路で、南北両方向へのジプニーがひっきりなしに通る。北方向のBaclaran行きが一番多く来るが、これが都市鉄道起点のBaclaran駅まで行く。Baclaranはバクララン教会を中心とした浅草のようなところで、活気ある市場もあり、マニラ中心部方面行きのジプニーもたくさん出る。交通の要衝エドサ・タフト駅も近い。

空港バス:本格的「学術調査」が必要

空港バスについてはまだまだ分からにところがたくさんある。巨像の一部を撫でまわしただけなのではないか、という隔靴掻痒感が残る。例えばループバスに関して、市内向け路線にはパサイ、アラバン行き以外に、「Cubao行き」というのが走っているのを目撃したことがある。また、ウェブ上の体験談には、パサイから第3ターミナル行き以外に、第1、第2、第4ターミナル行きというのもあってこれに乗ったとの証言もある。どういうことなのか、大元からの情報が出ていないので確認できない。乗り換え客専用のシャトルなどは、さらにいろいろ隠れたバリエーションがありそうだ。空港スタッフはもちろん、空港バス運行会社の従業員も全体像を把握していないまま仕事しているのではないか、という疑念。運行形態が頻繁に変わるのか、その時の従業員の判断で「柔軟に」運行形態を変えているのか。あるいは、例えば時刻表など出してもまったく時間を守れないので敢えて出していないのか。

空港バスの怪。この空港利用の簡単な基本情報について、まるで学術調査のような努力を強要される。ウェブ上の各種体験談・証言を集め、利用者や第三者機関から出される情報を参考にし、真偽を特定し、さらに自分で実際に体験、「実地調査」を積み重ね、少しずつ全体像を組み立てていく。それでも「真理」の探究は道半ばだ。

何も無茶な要求をしているわけではない。空港バス路線図と時刻表を出してくれればいいのだ。全部を網羅しても数ページだろう。簡単なことだ。確かにマニラ空港は大いに欠陥があるし、使いにくい。それで新しい空港を郊外につくるという計画もあるようだ。しかし、そこまで行く前にやれることがある。

「まぼろし」の市バス現れる

マニラ滞在最後の日、第1ターミナル右横の通り(Terminal 1 Arrivals Area Road)を歩いていたら、南方向から突然、市バスらしきものがやってきた。写真を撮る間もなかったが、あれは確かに民間バス会社運行の路線バスだったと思う。市バスが空港に来ているとは知らなかったのでびっくりした。停留所のサインもないのに、目の前で停まった。「ターミナル3に行くか」と運転手に聞くと、「行かない。〇✖〇✖までは行くが…」。よくわからないので乗らなかった。

いったいあれは何だったのだ。ウェブで調べたがわからない。当然のことのように市バスの路線図や時刻表など、どこにも出ていない。高級ビジネス・住宅街マカティ地区だけに限っては日本の国際協力機構(JICA)の協力で、詳細な交通路線図が作成された。このような図がマニラ全域について作成されればなんぼか便利になるだろう。これがマニラでは真新しい試みであって、他には何もつくられていない、ということのようだ。

いやはや、マニラ空港バスの研究は実に奥が深い。最後の日に見たあのまぼろしの市バスは何だったのか。新たな課題を突き付けられたが、私の「学術調査」もそこで終わりにする他なかった。


(以下、後日談)

最も完璧なマニラ空港解説

ニューヨークに帰ってからゆっくりとウェブ上での調査をすると、このWiki Voyageのマニラ空港解説ページが見つかった。英語ページだが、私が見た限り、マニラ空港について最も詳細な、かゆい所に手の届く解説をしている。一般市内バスでの第1、第2ターミナルへの行き方についても、9路線をリストアップするなど詳細に解説している(料金は12ペソから)。ジプニーも3路線が空港に来ているという(8ペソから)。さすがWiki Voyageだ。感動した。

(ただし、Airport Loopについての解説はほとんどないので、私のこのページなどの方が詳しいということになろう。)

空港に歩いて行く方法

特にこのWiki Voyageページで感動したのは、市バス路線もさることながら、歩いて空港に行く方法も載せていることだ。しかも、手を取り足を取るように説明している。

私も最初は、空港から歩いて都市鉄道の起点となるエドサ・タフト駅まで行こうとしたが、あまりの交通混雑で断念したことがある。このWiki Voyageページでも、そっち方向はやめた方がいいとアドバイスしている。代わりに反対側の国鉄ニコルス駅から空港に歩くことを推奨している。全長2キロだが、歩きやすい道路のようだ。詳しくは当のページを参照してほしい。

このような素晴らしいページを前もって知っていればよかった。今度行ったときは、市バスやジプニーで、そして歩きでの空港行きを試したい。もちろん、そのためわざわざマニラに行くほど私も暇ではない。マニラ在住の勇敢なバックパッカー諸君の活躍に期待する。