空港でボーディングカードを失くした

どうなるかの貴重な体験

空港で出発ゲートに入ってからボーディングカード(搭乗券)を失くした。ボーディングパスを失くしたらどうなるか。飛行機に乗るときチェックインした時にもらうあのカードだ。

飛行機に乗れなくなるのか。しかし、国外に出る場合、すでに出国管理は通っている。同じ道を引き返すわけにはいかないだろう。遺失物として届けられるまでどこかに収容されるか。係員に連行されて入国管理の方に回されるか。しかし、すでに荷物はチェックインしてある。飛行機の中に積まれてしまったろう。これを再び探して出すのも難しい。かといって、人が乗らないで荷物だけ運ぶのは、セキュリティ上問題だ。

このまれなシチュエーションでどうなるか、の疑問に応えて頂く貴重な体験をチェニス空港ですることができた。

何だか尻ポケットに入れたボーディングパスが折れ曲がっているな、と思って上着でかぶせるしぐさをした記憶はある。しかし、搭乗口で取り出そうとしたら、ない。300円分ほど残った現地通貨コインをどう処分するか、ケチな根性を起こして空港内店舗を歩き回っていたため罰があたった。

まず、搭乗ゲートのスタッフに

あのー、ボーディングパス失くしたんですけど。最初に搭乗ゲート係の女性スタッフに聞いた。言葉が不安だったが、何とか理解してもらえた。チェックインの記録はあるし、予約も入っているし、パスポートは持っているので本人確認もできる。何やらスタッフ間で話し、どこかに電話をかけ、「どうしようもないって」。

いや、英語じゃないので正確には何と言っているかわからないが、そんなニュアンスだった。どうしようもない、って、じゃあ、どうすればいいのだ。

セキュリティー・チェックの偉い人に言う

セキュリティー・チェックの所まで戻って、そこの責任者のような人に説明する。「何だと!」と言ったのかどうか、面倒くさそうに現場のスタッフらに落し物がないかどうか聞いた後、だれかを呼んで話し合い、どこかに電話を掛けた。「54番ゲートに行け」。それだけはわかった。私の乗る飛行機が出るゲートだ。

また係の女性らと話すことになるが、今度はセキュリティー責任者から話が来たからだろう、少し真剣に対処しているようだ。航空会社の人とセキュリティー側の人とが口論したりもしている。どうも、皆、面倒くさがって仕事を他にまわしたがっているようだ。

「モロッコ側の責任者を呼んでくるから」。確かに航空会社の男はそう(英語で)言ったように思う。モロッコ側の人? そんな人がチェニスの空港に居るのか。

再発行してくれた

しばらく待つこと十数分。すでに乗客の機内入りは終了している。「ほら、できたぞ」と言って別の男が新しいボーディングパスを持って現れた。見事に、失くしたものとまったく同じカード。簡単に再発行できるものらしい。「おー、サンキュー、サンキュー」。そこに居たスタッフたち皆に満面の笑みで礼を言い、機内に急ぐ。それを見て相手も苦笑せざるを得なかった。情が通じた。貴重な人的国際交流になった。かも知れない。

再発行ボーディングパスはまったく普通のボーディングパスで、これを見せれば、その後の機内でもどこでも完璧に普通に通れる。私がへましたことなどばれない。飛行機の出発を遅らせてしまった、と恐縮して機内に入り、後の方に座ったが、結構その後も入ってくる乗客が居た。出発も、私が席についてから30分くらいはたっていたと思う。

こうして私の大変なミスは、何事もなかったかのように収まった。航空会社の人たちは、もっと難しい問題に日々追われて仕事をしているのだろう。私の凡ミスなど、その中のささいな一部として、周辺に追いやられ、どこかに霧散してしまった。