なぜか「アルハンブラの思い出」を聞かない
グラナダに行ったら、街中至る所でギター曲「アルハンブラの思い出」が演奏されていると思っていた。アルハンブラ宮殿を背景にストリートアーティストが奏でる「思い出」をスマホ録画に撮ればいいお土産になる。漠然とそんな計画を描いていた。
しかし、グラナダに居た5日間、ただの一度も「アルハンブラの思い出」を聞かなかった。ストリートアーティストはいっぱい居る。ギターを演奏している者も多い。しかし、「思い出」は弾いておらず、最近のロック風の曲ばかりを聞いた。なぜなのか。
どうもあの曲はトレモロ奏法というのを多用して、弾くのが難しいらしい。アルハンブラ庭園の噴水のイメージで伴奏的な和音が繰り返され、あたかも二人で演奏しているかのような効果を出す高度な演奏曲なのだという。うちでは息子が弾くこの曲をよく聞いていたのでそんなことは気づかなかった。アマチュアギター奏者としては上出来だ。帰ったらほめてあげなければならない。
それはともかく、スペイン人ギタリストのフランシスコ・タレガ作曲「アルハンブラの思い出」(1896年)でアルハンブラ宮殿を知るようになった人は多いのではないか。アルハンブラ宮殿は知らなくてもあの曲は知っている。
ワシントン・アービング『アルハンブラ物語』
そういう形でアルハンブラ宮殿は有名になった。英語圏では、アメリカ人作家ワシントン・アービングの『アルハンブラ物語』(The Tales of Alhambra、1832年)が出てからアルハンブラ宮殿は有名になったらしい。それまでは、同宮殿跡は単なる田舎のぼろ屋で、崩れるままにほっておかれたと言う。アルハンブラ宮殿の博物館に、その辺の事情が展示・解説されていた。実物の芸術的・歴史的価値もさることながら、それを紹介する人の貢献により貴重なものが掘り起こされる。アルハンブラ宮殿にもそのような側面が大いに作用したようだ。