北駅周辺に安宿
ブカレストは北駅(Gara de Nord)の周辺に安宿がある。英仏独などヨーロッパ主要部は物価が高いので、ホステル(ドーミトリー形式)にならざるを得ないが、東欧なら何とか個室が欲しい。予約がキャンセルされたくだんの安宿(一応名前は伏せておこう)以外に次ようなものがあった。Hotel Sir(150レウ), Hostel Joe(150レウ), Andy Inn Hotel(200レウ)。Cazare Accommodation(120レウ)、Hotel Basarab(135レウ)、Urnas Hotel(145レウ)。他にもあるが、当たったところだけに留める。
くだんの安宿マネジャーは、類似の宿としてAndy Inn Hotelを勧めてくれた。インド系のレセプショニストが居て、やはりインド系のオーナーなのだろうとみた。しかし1泊200レウは高すぎるので他を探す。そのすぐ近くの奥まったところにHostelの看板があり、門をたたくとやはりインド系と思しきオーナーが出てきて1泊150レウ(4500円)だという。歩き回るのがきついのでここに決めた。2階の小ぎれいなダブルベッド部屋に1泊して、次からは同じ料金で下の階になるという。やや高いが、まあ人の好さそうなオーナー夫婦だし、お薦めホテルとしておこう。Hostel Joe。このオーナーがJoeなのだという。
駅の東側にも
ここに3泊して、次は探検心もあって、booking.comでかなり安いCazare Accommodationに泊まった。booking.comは「個室のみ」の検索をしてくれるところがありがたい。ドーミトリーになるかプライバシーが得られるかの差は大きい。
上記宿はだいたい駅の南西側なのだが、Cazareは東側にあった。再開発でもうすぐ取り壊されそうな一角だ。実際道路の対岸はすでに再開発終了済みのようで小ぎれいな高層の企業ビルが立っていた。
チェックインするまでが大変
10月31日に移動。東欧の安宿はそんなに悪くはないのだが、チェックインするまでの手間が一つのネックになる。レセプションというものがない。一般人が運営しているのだろう、電話やメールで段取りをつけて入る。
そういう中で、昨晩遅くまでがんばってThree社SIMカードの携帯ネット接続が使えるようにしたのは大きい。鍵のかかった玄関の前からでも、ネットや携帯電話でマネジャーと連絡が取れるようになった。
Cazareは、booking.comの施設情報には午後2時からのチェックインと出ているが、メールで問い合わせるとそれ以前でも部屋が空けば大丈夫、と連絡がきた。10時に行くと、玄関が施錠されていて呼び出しベルらしきものを押してもだれも出ない。玄関に電話番号も表示されているが、かけてもつながらない。北駅に戻ってホームでネットを調べ直し、booking.comに載っている電話番号の方にかけた。そしたらつながった。午後1時に来いという。それまで北駅のホームで時間をつぶす。
相変わらずだが、駅のホームというのは時間をつぶすのにいい。ヨーロッパの駅ホームというのは(アメリカの駅ホームもそうだが)だいたい出入り自由になっていて、そこのベンチに腰掛けていたりしてもかまわない。比較的空いているし、大きな荷物を持って座っていれば列車待ちの客だと思ってだれも怪しまない。
二人組の詐欺師、登場
午後1時に行くと、やはり玄関が施錠されベルを押しても反応がない。そこに表示されている電話番号にかけてもつながらない。大きな荷物をもって扉の前で右往左往している旅行者らしき者(私)をさっきからじっと見ている男が居た。声をかけてきた。
「このホテルに入りたいんだったら、こっちの方に行った方がいい。」
というようなことを言って、私を別の場所に連れて行こうとする。そら来なすった。
「いや行かない、俺はこのホテルに入りたいんだ。」
すると別の男が現れ、
「私は警察官だ。何があったのか。」と警察官身分証明書のようなものを見せる。はは、こいつらグルだな。どうせどこかに連れてって身ぐるみ剥ぐ魂胆に違いない。
「では、その身分証明書の写真を撮らせてもらう」と携帯をかざすと、
「それはできない。禁じられている。」
「私はこのホテルにチェックインしたいだけだ。また出直してくる。」
そう言ってさっさとその場を立ち去った。立ち去るとき、「おまえはどっから来た?」と聞いてきた。「日本からだ。」
ウーム、日本人は手ごわいな、と思ってくれたか。
幸い追ってはこなかった。彼らが見えなくなったところで、今度はbooking.comに登録されているさきほどの電話番号にかけるとまた通じた。さすがにbooking.comに登録した電話番号は確実に通じるということらしい。「ホテルの前に来ている」「そうか、もうすぐ行く」。英語がほとんど話せない男だが、「モメントー」という言葉が、そういう意味だと理解した。
陽気なおばさんに迎えられる
ホテル前に戻ると、そこに陽気なおばちゃんが居た。玄関を開け、カギを持って私を迎えた。英語をまったく話さないが、現地語で勢いよく話し続ける。
これは信じられる。電話で話したのがオーナーで、清掃などで雇っているおばちゃんが客を迎えるという手はずだったのだろう。ジャポネなのね、とか何とかこちらが理解しているかどうかにかまわず陽気に話しかけてくる。チェックアウトするときはこの郵便受け箱(のようなもの)の中にカギを放り込めばいいんだ、というようなジェスチャーをする。OK了解。宿代はカードでbooking.com側にすでに払っている。勝手に入ってまた勝手に出ていくだけ、ということだ。
(ごめん、何が「おばちゃん」だ。向こうとしてはアジアからの高齢の「じいさま」に対応したつもりでしょうに。)
案内された部屋は結構大きく快適そうだった。中庭から隣の貧しい家が見え、それなりの味がある。室外共同シャワー・トイレも、客が少なくほぼ専用に使えそうだ。Wifiが付いてないのは痛いが、これは昨日、携帯ネットを使えるようにしていたので大丈夫だ。テーブルにしなびたリンゴが3つ置いてあることにつましいながらおばちゃんの好意を感じた。
ヨーロッパの古いアパート
ヨーロッパに特徴的な天井の高いつくりだ。40年前ウィーンに半年暮らしたときを思い出した。ヨーロッパ、特に中欧から東には道路に沿って連続した中層のアパート群が並ぶ。天井が高い。入ると照明が人に反応して点く。玄関、階段、ホール、廊下と電気が点いては消えていく。そして自分のドアの前でカギを開けて入る。これもぴったりに合わなかったりしてちょっと持ち上げるように力を入れると初めて開く、とか。ドアを閉めても自動ロックされないので出てから入ってから必ずカギを占める、など。細かいことだが、40年前、そして東欧の西ルートを旅した4年前の記憶がよみがえってきた。
ブカレストは危険か
2012年8月に、ブカレスト空港に着いたばかりの日本人女性大生が、ルーマニア人男性に連れ去られ殺害される事件があった。その影響もあるのだろう。ブカレストは治安が悪いという評判が日本人旅行者の間で特に高まったようだ。ネット上にも危険だという書き込みを多く見た。
実際着いての印象は、そうでもない、というものだった。むろん旅行者狙いの小犯罪はあるが、アテネのわさわさした雰囲気から来ると静かで、ヨーロッパ的な落ち着きのある街だと感じた。どこから来るかにもよるのだろう。西欧から来ると貧しく荒れた街に見える。しかし、南から来ると、むしろヨーロッパ的な落ち着きを感じる。ギリシャにしても、さらに南から来れば、「ああヨーロッパに来た」という安堵感を感じだろう。
放し飼いされている大型犬が多くて危険、という情報も多く見た。確かにこれはルーマニアの地方都市に行けばそうなのだが、ブカレストではそういうことはなかった。放し飼いの犬をほとんど見なかった。以前はそうだったのかも知れないが、急速に状況が変わってきているものと思われる。