州民だれでもどこからでも記事データベースにアクセス

NOVELny:州全体をカバーする電子図書館

ニューヨーク州には、ニューヨーク公共図書館やブルックリン公共図書館が提供する雑誌・新聞記事データベースとはとりあえず別口のNOVELny( New York Online Virtual Electronic Library)という州立図書館提供データベースがある。これがなかなか面白い。後で説明するように、州内からアクセスするならだれでも図書館カードなしにこれを利用でき、例えば日本人がニューヨークの空港で数時間の乗り換え時間ができたような場合でも、この豊富なデータベースが使える。

基本的に米国各州は、州立図書館(State Library)、図書館管轄局(library administrative agencies)、図書館連合体(library consortia)などがまとめて商業データベース会社と契約を結び、各地の公共図書館にデータベースアクセスを提供している。個々の図書館が個別に契約するよりまとめて購入した方が、住民一人当たりにして、より安くデータベースを利用できるからだ。ニューヨーク州でこのサービスを提供するのが州立図書館運営のNOVELnyというデータベース・サイトだ。

通常、州民は地元の公共図書館を通じてこの州立図書館データベースにアクセスする。自宅などから地元図書館のライブラリーカード番号を入力して利用するわけだ。弱小図書館でも、これである程度レベルの雑誌・新聞記事のデータベースが利用できるようになる。ニューヨーク公共図書館、ブルックリン公共図書館、クィーンズ区図書館のような大規模館でもこれを活用している。しかし、大規模館は大規模館らしく、他の様々なデータベース会社とも契約して、さらに膨大な情報アクセスを可能にしているわけだ。

豊富なデータベース

NOVELnyが提供する雑誌・新聞記事データベースはGale(Cengage Learning)社のAcademic OneFile/InfoTrac系のデータベースが中心。以前はProQuest社系のデータベースが多かったが徐々に絞られてきたようだ。百科事典Britannicaのいくつかのデータベースも扱っている。Gale(Cengage Learning)社提供の13データベースがリストアップされ、中には主に全文記事の1万6000の一般誌紙・学術誌のデータベースAcademic OneFileやInfoTrac Collection、8100経済誌紙の全文記事データベースBusiness Insights: Essentials、2000紙以上の全文記事新聞データベースInfoTrac Newsstandなども含まれ、これだけですでに十分すぎる情報が得られるだろう。

コストを35分の1に

2017年現在、州内5900の公共図書館、学校図書館などにNOVELnyアクセスが提供されている。これらの図書館はほとんどが館外からのネット接続を提供しているので、州民のほとんどが本格的な雑誌・新聞記事データベースにアクセスできる。小規模館が個別にデータベース会社と契約するのと比較して、州図書館を通じた「まとめ買い」で、住民一人当たりデータベース購入費用を35分の1にしているという。

こうした州立図書館などを通じた全州民へのデータベース提供はすでに1990年代から始まり、当時からほぼ全州で実現されていた(岡部一明「図書館で商業データベース提供」)。現在では、連邦政府からの活発な助成もあり、もちろん各州とも相当規模のデータベース提供が行われている……はずだが、全米的な現況を調べようとすると、意外に情報が少ない。これだけ画期的な全国的電子図書館の事例だ、もう少し全貌をさぐる調査・研究があってもいいと思うが、ない。上記記事で示したように、1990年代の方が全米規模の報告書が豊富にあったように思う。今では珍しくもなく関心が払われないのか。私の調べた限り、もっとも最近の記事として2005年のHoward Falk, “State library databases on the internet,The Electronic Library, Vol. 23 No.4, 2005, pp.492-498が見つかっただけだった。これも全体を調査した報告とは言い難い。学校図書館経由の提供に絞った報告書なら、Karla S. Krueger, “The Status of Statewide Subscription Databases,” School Library Research, Vol.15, 2012 がある程度詳しい。もちろん、ウェブ上には各州の州立図書館、図書館連合体などが提供する全州民対象のデータベースの実物サイトが多数存在する。これを逐一調べていけば全米調査になるわけだが、作業が大変だ。

ジオIP認証でアクセス

州立図書館などがまとめ買いしたデータベースは各地方図書館を通じて提供されるのが普通だ。しかし、ニューヨーク州のNOVELnyは他に、画期的なアクセス方法を2つ採用している。1) geoIP authentication(ジオIP認証、ジオロケーション)により、州内からのアクセスなら自動的に認める、2)州発行の運転免許証、非運転身分証明書の番号を入力してのアクセスも認める、という方法だ。いずれも、地元図書館のカード番号入力を不要にするやり方といえる。

ジオIP認証による自動アクセスは2013年7月にはじまった(New York State Library, “Geolocation and NOVELny Databases,” NOVELny Press Release, July 1, 2013)。アクセスしたコンピュータのIPアドレスからその場所を判断して、ニューヨーク州内であればデータベース接続を認める、ということだ。ジオロケーションの場所特定は必ずしも正確ではないと聞いているが、多少の誤差はかまわないという太っ腹な姿勢のようだ。

外国人でもニューヨーク州に来れば使える

ニューヨーク州内に居ればだれでも接続できるのだから、州外居住者はもちろん、日本人など外国人訪問者も皆アクセスできる。もちろんアメリカの公共図書館のライブラリーカードは、短期滞在外国人(観光、留学、駐在ビザなど滞在資格を問わない)でも、パスポートと自分宛手紙など住所証明を出せば入手できる。しかし、それがなくとも州提供データベースにアクセスできるということだ。例えば日本人が数日ニューヨーク観光に来ても、あるいはよく使うであろうジョン・F・ケネディー空港(ラ・ガーディア空港でもよい)で若干の乗り換え時間ができたときなどでも、NOVELnyサイトに行けば中身のデータベースが使える。来訪の際はぜひ試してほしい。

他州にも広がる気配

ジオIP認証による接続は他州にも広がっているようだ。少なくとも私が見た限り、アラバマ州インディアナ州の州電子図書館サイトがこれを採用している。

運転免許番号でもアクセス可能

州発行の運転免許証や非運転身分証明書の番号を入力してアクセスできるというのも画期的だ。州内からなら何の番号も入力せずに簡単にアクセスできるのだが、旅行などで州外、国外に出た場合はちょっと困る。そういう場合これまでは地元図書館のカード番号を入力してアクセスしていたわけだが、州発行身分証明書番号の入力でもいい、となった。地元に居ようが地球上どこに居ようがライブラリーカードなしで電子図書館が使えるようになったということだ。

地域図書館が迂回される

これが暗示する未来は何だろう。米国のライブラリアンたちはその「危険性」にどれほど気づいているかわからないが、地元図書館が無用になる未来ではないか。

デジタル化の波でアメリカの公共図書館は、館内でのインターネット端末利用、商業データベース提供、e-book貸し出し、映画などの映像ストリーミング提供、と必死に新時代に食らいついてきた。しかし、皮肉にも、デジタル化に対応すればするほど、図書館独自の役割というのも薄くなってくる。例えば商業データベースなら図書館を通じなくても、州やどこかの機関が一元的に提供すればそれで済むことだ。

これまでは一応、地域図書館に登録してカード番号入力でアクセス、という形で図書館の存在意義を辛うじて保ってきた。しかし、NOVELnyのように、地元図書館を迂回して直接データベースにアクセスできてしまってはこの神通力も薄れる。NOVELnyが、商業データベースだけでなく、e-bookや映像ストリーミングなどを充実させ、電子図書館としての完成度を高めていけばいくほど、地域図書館の役割は何のか、さらに過酷な問いに向き合わされることになろう。