マニラ断章

マニラ中心部。

フィリピンの下町に薬屋が来た

マニラ空港第1ターミナル近くに安宿を予約した。空港とは打って変わって庶民的な下町(Rivera地区)に入ってくると、おばさんが近づいて来て「薬(medicine)を持ってきたのか」と聞く。

何のことかわからず、ノーノ―と言って、宿に向かう。医者じゃないぞ。だれか薬を待つ病人でも居るのか。空港からの道で物乞いの少年らが寄ってきて警戒したこともあり、ここは薬物売買が行われている地域なのかとも疑った。

宿はすぐ見つかった。付いてきたおばさんは宿のマネジャーともいろいろ話している。

後でじっくり考えるに、あれは、ドラッグ運び屋を警戒する地域保安係のボランティアで、用心のため怪しい者を問いただしたのではないか。確かに、しっかり者のご婦人という印象だった。そしてこのコミュニティー。空港のすぐ近くだというのに、伝統的なフィリピン近隣社会だ。貧しいが人々は皆明るく活気がある。フィリピンと聞いて思い浮かべる、まさにその通りの典型的な下町光景だ。

こんなにも子どもが居るのか、と思うほど子どもたちが路地で遊んでいる。小さい駄菓子屋がいくつか並んでいる。大人たちも外に出て夕涼み。路地のT字路にストリートバスケの玉入れコーナーがあるのが気に入った。年長の少年たちがプレーしている。平和な街、家族が暮らすコミュニティーだ。

そこに入ってきた怪しげなよそ者。そういう風に私は見られたのだ。人相・風体を少し反省しなければならない。この安宿に、とりあえず1泊して様子を見ようと思っていたが、気に入った。ここにずっと泊まることにした。

(この宿はRedDoorz near NAIA Terminal 1。取り立ててお薦めというわけでもないが、JALなどで第1ターミナルに着いた場合に、歩いて行ける距離の安宿として使いではあると思う。第3ターミナルに着いた時には、ループバスで簡単に行けるパサイ地区の安宿を別の所で紹介した。マニラ空港は各ターミナルが離れており、別の空港に着いたのと同様の別対応を迫られる。)

空港のすぐ近くなのに、このリベラ地区は、伝統的なフィリピン集落の雰囲気があって、なごむ。

セブンイレブン:日比比較

フィリピンにはセブンイレブンが多い。日本のセブンイレブンと似ているが、違う点が2つ。一つは、ほとんどの店で店内飲食ができること。イスとテーブルが置いてあり、店内で買ったサンドイッチやホットドッグをそこで食べられる。カップヌードルにお湯を入れて食べられる。フィリピンに着いたばかりでまだ屋台食を食べる勇気がないうちは、ここで衛生的な食品を食べるのもいいだろう。少し物足りないが、しばらくすれば屋台食に手を出す根性が出てくる。

日本のセブンイレブンと異なる第2の点は、 ― 拳銃を持ったガードマンが見張っていることだ。「ようこそ」とドアを開けてくれるときもある。

フィリピンの街でこのような装甲車をよく見る。現金輸送車だという。カラフルに染めているだけちょっと穏やかに?なっている。銃を持った警備員にもなかなかカメラを向けにくいが、こういうのも若干躊躇する。バスの中からうまい具合に撮れた、と思ったが、この装甲車の陰にはショットガンを持ったガードマンが居て、目が合ってこっちを睨まれた。

フィリピンに来て偉くなった

フィリピンに来て偉くなった気がする。人々が私に「サー」を付けて話してくれる。「Thank you, sir.」 おれの爵位は何だったのか。

店やホテルではだいたいそんな具合。アメリカではまず聞かない。しかも、彼らはこのうやうやしい表現を非常に流ちょうに言う。英会話練習のようなぎこちない調子ではない。生活言語としてごく自然に言う。だから現実味があり、本当に偉くなったように感じてしまう。

フィリピンでは、しわくちゃのおばあちゃんでも、屋台のおじさんでも英語を理解し、話す。大したもんだ。いや、大したものと言っていいのか。

テレビはほとんどが英語。アメリカの映画やドラマを普通にやっている。字幕は入らない。ラジオも英語だ。コマーシャルもあの米語的な早口でアメリカ商品の宣伝をしている。なんだい、アメリカのコマーシャルをそっくりやっているのかね、とあきれていると、時々「値段は〇Xペソ!」と叫ぶので、ああこれはフィリピンのコマーシャルなんだ、と気付く。

英語が「第1言語」?

フィリピンで英語は第2言語だというが、むしろ第1言語ではないか。「この地点、交通事故多し。注意。」「学校近し。」「喫煙は喫煙場所で。」「非常階段」「2個買えば1個無料」などなど、生活の中の掲示はほとんど英語だけ。「営業許可証」「建設許可」など政府文書も英文だけで貼りだされている。国内線航空機の機内放送も英語だけだ。

現地語は、特定の狭いエリアでだけで使われているようだ。小中高生の授業からして、国語(タガログ語)以外すべて英語で教えられている。日本語表示が主で、電車の案内などで英語も時々付け加えられるなどという「第2言語」の位置とは相当違う。

これは懸念される事態ではないのか。難しいこと、専門的なことが母語では言い表せず、英語に頼ることになっている。このようして言語というのは次第に滅びていくのではないか。「二次方程式」「光合成」「三権分立」「従業員持ち株制度」「貿易制裁」…こんな言葉を表す現地語はあるのか。いや、日本語だって訳せ切れないから「インフォームド・コンセント」とか「コーポレート・ガバナンス」とかカタカナを多用しているのだが。

グローバリゼーションが進むと言語はどうなるのか。フィリピンはその人類の未来を先取りしているのかも知れない。

雨が多かった

マニラはどういう訳かこの時期雨が多かった。たたきつけるような土砂降りになることもあった。台風ではないが、台風の卵のような低気圧が常に発生する地域だ。観光もそこそこに、陸・海路、南のセブ島に向かった。

雨に濡れるリサール公園。マニラ中心部にある市民の憩いの場だが、小台風並みの大雨で人手がほぼゼロ。