国家の「限界集落」化

電子メディアの「ポリティコ」欧州版が、「ラトビア -消えゆく国家」という衝撃的見出しを掲げた(POLITICO, January 5, 2018)。ラトビアは他のバルト2国同様、1991年にソ連から独立を回復し、2004年にヨーロッパ共同体(EU)に加盟した。西欧諸国との移住が自由になり、以後、急速な人口流出に見舞われた。2000年に238万人だった同国人口は2018年初頭に195万人に落ち込んだ。

むろん人口流出だけが原因ではない。バルト諸国など東欧では出生率が低く、人口の自然減もある。しかし、バルト諸国の人口減の3分の2は人口流出によるものだという。

ラトビア紙のジャーナリスト、アレクサンドル・ルーベ氏は次のように言う。「簡単なことだ。国境が開かれている。他のEU国の情報も入る。それで若い人が英国、アイルランド、ドイツに行ってしまう。」

TVコメンテイターのオットー・オゾルス氏は言う。「ラトビアはすでに過疎国だ。この減少率で行くと、50年かそこらで国として存立するのを止めることになるだろう。」

米経済情報メディア「ブルームバーグ」は「欧州の人口減時限爆弾がバルト諸国で作動」との見出しを掲げた(Bloomberg, April 20, 2018)。ラトビアは1991年の独立以来、人口の4分の1を失った。国連推計によれば、2050年までにさらに22%を失い、2100年までには41%を失うという。

すでに人口の6分の1を失っている南隣リトアニアは、2050年までにさらに17%を失い、2100年までに34%を失う。

東欧諸国はいずれも同じような状況だ。ウクライナは2100年までに36%、モルドバでは51%の減少が見込まれるという。

日本国内でも、出生率の低下とともに、農村から都市への人口流出で、地方の過疎化、さらに「限界集落」化が起こっている。複数諸国間で国境を取り払ったEUではそれが超国家的規模で起こっている。国家の「限界集落」化状況も取りざたされている、というわけだ。

かつて東欧諸国の国家的危機は東の大国の支配によるものだった。しかし、現在、別の危機がこの地域の国家的存立を危ういものにしつつある。あるいは、かつて人口問題は「人口爆発」のことで、その時限爆弾が時を刻み始めていることに警告がされていた。しかし、今、人口が減少する時限爆弾がこの地域に静かに作動し始めている。

バルト3国の中でも最北のエストニアはIT立国を目指し、順調な経済開発路線を走っている。「eストニア」とも呼ばれ、ヨーロッパIT産業のオフショア開発拠点になっている。その中で、エストニアの人口減少は止まった。この辺に解決策へのヒントが隠されていると思うが、EU統合が「周辺」にとってどういう意味を持つのかは、慎重に見て行かなければならない課題だろう。