テトゥアン安宿紹介:歴史的建造物に泊まる

歴史的建造物だった

テトゥアンで入った宿(末尾に詳細)は1泊1000円程度だが、素晴らしい建築物だった。18世紀に建てられた貴族末裔の屋敷とかいう古い建物。高い天井の2階建てで、真ん中が吹き抜けになっている。部屋はすべてこの「中庭」側に向く。内部の天井から陽光が入る。そして、モザイクがはめられた大理石のフロアー、白い壁、丸い柱、窓の装飾、歴史を感じさせる古い家具、調度品。外の喧騒から隔絶された大家族の生活空間が確保される伝統的たたずまいだ。

屋上からの眺めもすばらしい。テトゥアンの白い街並みがよく見渡させる。

必ずしも快適ではない

いや、最初は使いにくいと思った。私が欲しいのは狭くて何の飾りもなくていいから、清潔で暖かく、シャワー・トイレ付きで、ネットがちゃんとつながればいい。しかし、ここは暖房もなく、共同のシャワー・トイレは1階まで降りて行かねばならず、排水も悪く、電気が暗く、机とイスもない。

体験宿泊として貴重

だが、机とイスを入れ、余分の毛布をもらって一応対応すると、やはりこの18世紀の貴族館(やかた)は貴重なものに思える。外からいろんな歴史的建造物を観光するが、中に入る機会はあまりない。モスクも、非イスラム教徒は入れない。だとしたらこんな所に泊まれるのはまたとない体験だ。しかも最安値で。

夜トイレに起きて、ゆっくりゆっくり階段を下りていくと、薄暗い吹き抜け大広間に200年前のイスラムの人たちの記憶が漂うのを感じた。

18世紀の歴史的建造物を、何とか現代に使えるまでに改造している努力の方をこそ賞賛すべきだ。シャワーからちゃんと熱いお湯が出る。西洋式のトイレがあり、紙もあれば水も流れる。電気も来ている。Wifiも階ごとにルーターを設置して快適だ。トイレ・シャワーが2階にないのは不便だが、この造りでは無理なのだろう。

別の宿も体験

最初に2泊予約して、その宿(またはその街)が気に入ったら宿泊を伸ばすというやり方をしている。今回もその方式で、何回目かの延長の時、「空きがない」ということになった。「だってあなたは、明日8時には出発すると言っていたでしょう」。

わかった、ちょっと待て、別の宿を探してくる、と外に出た。何軒かあたって、この街の旧市街のまともな宿は200~500ディルハム(2000~5000円)だということを確認。今の宿は90ディルハム(1000円)で激安だ。そういうのに慣れてしまっていた。さらに安いのを探す。そのうち、見知らぬおじさんの手助けが入った。あそこだったら100ディルハム(1000円)の部屋があるぞ。よし行ってみよう。この際、あらゆる手助けを借りよう。おじさんに付いて行った。

最低が200ディルハムだった。しかし、それを150まで値切った。よし手打ちだ。シャワー・トイレ付きで窓もあり、ベッドもきれいだ。朝食も付いているし、食堂からの眺めもいい。玄関はそまつだったけれど(何しろ旧市街のあまりきれいじゃない路地に面している)、今の宿に比べて格段にいい。

おじさんは、案内料を私に請求して来るか。そんなことはまったくなかった。善行してよかった、という感じ。えらい。近くの友人のお店にも連れて行ってくれた。これも下心はなく、いいお店だから。そして友人が経営しているので、その友人ため。芸術作品のような土産品がたくさん置いてあった。素晴らしい。それで終わりだ。ありがとう、おじさん。おじさんに神のご加護を。

予約サイト以外にもいい宿はあるということだ、と思いながら、部屋に入ってからゆっくりbooking.comをチェックすると、何と、それはそこにあった。booking.comの中で最安の前の宿に次いで2番目に安い宿だった。おお、私にも神のご加護があった。

結論(お薦め)

テトゥアンに来たら、旧市街に泊まるのも一つの方法だ。歴史的建造物を中から体験できる。宿のまわりにも貴重な史跡スポットがたくさんある。イスラム(あるいはモロッコ)の伝統生活を濃密に体験したい、調べたい、という人にはまたとない機会だ。それを安く試みるには、

1、Aubergue Riad Buena Vista(+212 5399-64318)

地元ではDalia Hotelで通っている。住所は省略。恐らく住所を見ては行けないし、いずれにせよ予約サイトで検索すれば出てくる。このホテルはbooking.comで一人部屋の中で最安だった宿だ。一泊税込み1100円。トイレ・シャワー共同。1階にまで下りて使う。歴史的な建造物を体験できるし、周囲の濃密な旧市街空間は、本格派旅人には絶対のお勧め。モロッコ式の伝統建築宿(Riad)を体験できるのは他にも多いが、これはその中で最安。快適性ではある程度覚悟を。苦手な人は、体験のため1~2泊してあとは2へ、というやり方でよいだろう。

2、Casa Medina Sanaa

booking.comの一人部屋で2番目の安さ。サイトでは2,498円になっている。さほど歴史的というほどの建物ではないが、その分快適。トイレ・シャワー付き。1から移って来ると正直ほっとする。1から近く、濃密な旧市街空間は同じ。

その他、旧市街の宿を自分で探してもよい。一人部屋相場は200~500ディルハム(2000~5000円)。

歴史的建造物の宿ダリア・ホテル。入口の左側に市作成の表示板が貼ってある。「ダリア・ホテルは、中庭と4本の柱、アーチのある家屋建築で、18世紀の建築様式に沿っている。Dfouf家が所有していた」とある。テトゥアンにはレコンキスタで追われたイスラム教徒の貴族らが流れてきた。そうした人々、その末裔たちの家が多数残されている。玄関はどこも粗末なものだが、内部は立派だ。
ダリア・ホテルの内部。1階の広間に受付がある。
2階を望む。私の入った部屋。
上から見た1階の広間。吹き流しで「中庭」のようになっている。
屋上ベランダからの眺め。テトゥアンの白い家のスカイラインが近場から見渡せる場所はなかなかない。
すぐ近くに小さな広場があり、ここで辛うじて空が仰げた。迷路で方向感覚が狂ったらここに出て太陽を仰ぎ、感覚を戻していた。
同じく近くに城壁の遺跡があった。13世紀に構築がはじまったという。17世紀につくられた王宮も近いのだが、それは庶民の街からは簡単には見えない。
近くの広場に面して宗教博物館があった。イスラム教の祈りの様子、道具、書物などが展示されている。
宗教博物館の内部。中庭のある2階建ての建物だ。かつては神学校だったという。
年季の入った書物。
祈りの際、神学者の座るイス。こうしたモスク内の様子を示す各種展示があり、イスラム教の奥深い内側が理解できるようになっている。通常モスクには入れないので、非イスラム教徒には貴重な場所だ。ダリア・ホテルの周囲にはこのようなものも含めて、貴重な場所が多く、濃密なイスラム、モロッコの文化に触れられる。深く探訪したい人には願ってもないところだろう。
新しく入ったサナー・ホテル。どこでも玄関は粗末だが、中に入ると立派な造りになっている。
3階レストランからの眺め。天気が悪かったが、リーフ山脈の山並み(右手)から、マーティル川河口方面(左手)が見える。晴れていれば、青い地中海も見えるはず。

 

この「2番目に安い」安宿を教えてくれた「おじさん」。神のご加護を。ん?私よりずっと若いじゃない。
近くの民芸店に案内してくれた。店内の展示とそのマネジャーさん。さすがにユネスコの工芸関係創造都市ネットワークに指定されているだけあって、非常に凝った芸術品のような土産物が並んでいた。