密室に閉じ込められる恐怖

エジプト・ギザのピラミッド。恐怖の体験はカイロ市内の宿で。

家の中でも恐怖の瞬間というのはある。リビングと寝室のドアが何かの不具合で開かなくなったとしたらどうだろう。寝室に閉じ込められて外に出られない。

まあ、家だったらリビングに居る家族に言って業者を呼んでもらい、開けてもらえる。窓から外に出て自分で対処することもできる。

しかし、これがもし外国のアパートホテルの8階の部屋だったら。しかも深夜で、携帯その他通信機器はリビング側に置いたままだったら。

この恐怖を私たちはカイロの安宿で体験した。夜、トイレに起きたのだが、寝るとき何気なく閉めた寝室のドアが開かない。ノブをあれこれ回しても、いっしょに居たカミさんと二人で力いっぱいドアを押しても引いても開かない。

民間のアパートを貸し出した民泊型安宿だった。オーナーは個人で、その人に連絡しようにも、携帯もパソコンもリビングに置いたままだ。8階アパートだから外に出ることもできない。ベランダから叫んでも下に届かない。届いても言葉が通じないだろう。このアパートのオーナーに連絡してくれと言おうにも、オーナーがどこのだれなのかのメモもリビングの方だ。8階のこの部屋のオーナーを調べてくれと地上の人に叫んでも難しいだろう。

どうすればよいか。

幸いベランダがあったので、その排水溝あたりに用を足して当座の危機は脱した。しかし、その後どうすればいい? 朝になってから外に叫びまくって救急隊を呼んでもらうか。あるいは自分で内側からドアに体当たりしてぶち破るか。

青くなって対応を考えるうち、幸いにも -そうまったく奇跡的に幸いにもー ベランダから他の部屋に入るドアが施錠されておらず、そこから屋内に入れることがわかった。このアパートは2LDK70平米キッチン・バストイレ付きの広いマンションで、こんなのが1泊4000円で泊まれるなんてホントか、と感動して入った宿だった。寝室が離れ離れに二つあり、その双方から広めのベランダに出られるようになっていた。こんな造りのホテル、いやマンションでもこんな造りはあまりない。しかも、もう一つの寝室ベランダへのドアが施錠されてなかった。

あやうかった。脱出してから胸をなでおろした。この奇跡の偶然が重ならなかったら今頃どうなっていたろう。時間を見ると夜の3時だった。もう寝られない。特安の立派なマンション型ホテルなのでずっと居ようと思っていたが、夜が明けるとともに退出したのは言うまでもない。トラブル苦情をもちろんオーナーに連絡した。寝室ドアはリビング側からも開かない状態。どうやって開けたか、その後の展開を、私は知らない。

教訓:宿に入ったら、閉めた後ドアが開くか必ず確認すべし。自分を、逃げられる場所においたままで。スマホは常に肌身離さず。

(ウクライナ周辺を目指す旅だが、冬になったので、寒さ回避で、ギリシャのアテネ、サントリーニ島、クレタ島、エジプトのカイロと南下してきた。)