全米に1万6000の公共図書館(施設数)
アメリカ図書館協会(ALA)の2017年調査によると、米国には12万6415の図書館がある。内訳は、「公共図書館」(public libraries)9068館、大学・研究機関などの「学術図書館」(academic libraries)3793館、小中高校などの「学校図書館」(school libraries)10万6187館、企業・医学・法律・宗教などの「特別図書館」(special libraries)6275館、陸海空軍の「軍隊図書館」(armed forces libraries)235館、政府図書館(government Libraries)857館だ(American Library Association, “Number of Libraries in the United States as of September 2017: A Fourth Update to ALA Library Fact Sheet 1“)。
このうち、公共図書館数9068館は、2017年9月に発表された博物館・図書館サービス院(IMLS、連邦政府で図書館を管轄する機関)による2015年度調査に基づいている(Institute of Museum and Library Services, Supplementary Tables, Public Libraries in the United States Survey Fiscal Year 2015, September 2017 )。これは運営主体の数で、建物としては本館8891館、分館7669館、計1万6560館がある。本館がなく分館のみの図書館、車両による移動図書館のみなどの図書館もある。調査された各図書館の年度は7月から6月、1月から12月、10月から9月など州によって多様。
予算、職員数、蔵書、入館者、貸出冊数など
その1年前の2014年度の数字になるが(2015年度調査の全体報告がまだ出ていない)、アメリカの公共図書館の予算(運営収入)総額は121億ドルで、ピーク時の2009年度の126億ドルから減少している。財源は自治体85.2%、州政府7.0%、連邦政府0.4%、その他(寄付、財団助成など)7.4%。人口一人当たりの運営収入額は39ドル34セント。スタッフ数も2009年度から2014年度まで3.9%の減少でフルタイム換算13万8332人。うち、ライブラリアン(司書)は34.1%に当たる4万7194人、さらにそのうち67.9%の3万2045人がアメリカ図書館協会(ALA)認定の図書館情報学(MLS)修士号取得のライブラリアンだ( 以下、出典はInstitute of Museum and Library Services, Public Libraries in the United States Survey Fiscal Year 2014 (August 2017) )。
公共図書館の蔵書など所持資料数は前年度比9.3%増の計12億点で、人口一人当たり3.8点。内、印刷物66.1%、電子書籍(e-book)18.4%、オーディオ資料(ダウンロード形式を含む)9.6%、ビデオ資料(同)5.8%。デジタル資料については後で詳しく論じるが、2005年度に90.0%だった印刷物が2014年度に66.1%に減り、代わってe-bookが1.0%から18.4%、ビデオ資料が4.4%から5.8%、オーディオ資料が4.6%から9.6%に増えている。特にe-bookの伸びが大きく、2014年度段階で、全公共図書館の78.2%に当たる7096館が平均2万3533点のe-bookを提供していた。
実際に図書館に足を運ぶ入館者数は全米の公共図書館で年間14億人回(1日3900万人回)で、2009年から2014年までで9.4%減。貸し出される資料は年間23億点で、同6.1%減。米国の図書館はデジタルデバイド克服のためインターネット利用の場を提供する役割も果たすが、2014年度には全米に5年前比で16.6%増の28万5394台のインターネット接続用パソコンが設置されていた。しかし利用は同12.5%減の年間3億2200万セッションにとどまった。公共図書館が催す講演、文化教室など各種プログラムへの参加者は5年前比17.6%増の1億190万人回だった。
日米図書館比較
*米国2014年度、日本2017年。日本側の参考資料は日本図書館協会『日本の図書館 統計と名簿』2017年。
*1 日本の公共図書館は、都道府県立、市区立、町村立など。
*2 支出額。日本は経常図書館費と臨時経費の合計。1ドル=110円換算。
*3 フルタイム換算。日本は専任、兼任、非常勤、臨時、委託・派遣を含む。
*4 米国はALA認定修士号取得者3万2045人とそれ以外を含む。日本は司書と司書補を含む。
*5 日本は電子書籍の統計がないが、極めて少ないと推定される。
日米の主要図書館
資料:
US Library of Congress, “General Information“; “Library and Information Science: A Guide to Online Resources“
The New York Public Library, “At a Glance“; “About The New York Public Library“; “General Fact Sheet 2011“
国立国会図書館「組織・職員・予算」2016年、「統計」2015年
*1 ニューヨーク公共図書館中央館(Research Centers)は本館が中心となるが、他に科学産業ビジネス図書館、舞台芸術図書館、黒人文化図書館を含む計4研究図書館の数字。(その他に88分館がある。)
*2 蔵書に関しては地図、草稿、視聴覚資料などを除き図書(book)のみの数字。ニューヨーク公共図書館中央館の場合は、公式には「各種資料4451万点」という数字しか示されていなが、Tom Mashbergnova, “Slippery Number: How Many Books Can Fit in the New York Public Library?,” November 27, 2015が、そのうち書籍は約1000万冊という同館推計を聞き出している。
*3 e-bookについても、図書館が作成した歴史的資料等のデジタル・アーカイブを含まず、書籍のデジタル版だけとした。
米公共図書館の象徴、ニューヨーク公共図書館
アメリカ図書館協会(ALA)が、2014年にまとめた「米国の大規模公共図書館」リストによると、ほとんどの指標でニューヨーク公共図書館がトップの位置を占めた。年間予算、蔵書数、貸し出し数、来館者数で大規模25館のうち1位。サービス提供住民人口でだけ、アリゾナ州マリコパ郡図書館、ロサンゼルス公共図書館に次いで3位だった。(米議会図書館は「政府図書館」として別枠なので含まれていない)。
ニューヨーク市(人口人)の図書館サービスは3つの独立組織、ニューヨーク公共図書館(マンハッタン区、ブロンクス区、スタテンアイランド区)、ブルックリン公共図書館(ブルックリン区)、クィーンズ郡図書館(クィーンズ区)に分かれているので、これを合計すれば、もちろんサービス提供人口でもダントツ1位になる。
ニューヨーク公共図書館は1895年設立。1901年から本館の建設が始まり、1911年に完成。現在、3区344万人を対象にサービスを提供している。マンハッタンにある4中央館(5番街にある本館、その近くの科学産業ビジネス図書館、リンカーンセンターにある舞台芸術図書館、ハーレム地区にある黒人文化図書館)の他、各地域に88の分館がある(マンハッタン区41、ブロンクス区35、スタテンアイランド区12館)。上記比較表の数字は中央4館だけのものだが、分館を含めると、予算額2億4544万ドル、職員2536人、年間来館者1770万人、図書利用カード登録者312万人となる。蔵書は書籍、印刷物、地図、草稿、音声記録、楽譜、ポスター、記事切り抜きなどあらゆる資料を含めて5295万点となる(中央4館で4451万点)。
別組織になっているブルックリン公共図書館(58分館、1896年設立)、クィーンズ郡図書館(62分館、1901年設立)も大規模館で、全米ランクの上の方に出てくる。米国の図書館は、18世紀に小規模な会員制私設図書館としてはじまり、次第に統合・再編されてくる過程を歩んだ。次稿で示すように、これら3館は依然として民間非営利団体(NPO)で、自治体が合併したからといって自動的に合併するわけではない。