拡大するサンフランシスコ都市圏 ―シリコンバレー経済の波及力

コンコードは「サンフランシスコ圏の端」ではなかった

私の住むコンコードは、昔は高速地下鉄BART(バート)の終点だった。だからコンコードと言えば、サンフランシスコ圏(一般には9郡からなる「ベイエリア」と呼ばれる)の東端、というイメージだった。実際、サンフランシスコ中心部まで直線距離で50キロあり、自転車で行ける距離ではなく、私も困難な課題をつきつけられている。(ベイブリッジ西半分が自転車通行不可で、物理的にサンフランシスコまで行けないし、そこが通れたとしても片道6時間はかかる)。

だが、現在、サンフランシスコ圏はさらにその外に広がっている。2018年にBARTはアンティオックまで伸びた(最後の2駅は別系統のジーゼル動車線)。サンフランシスコからコンコードまでの2倍近い。そしてその先、サクラメント、ストックトン、モデスト、マーセッドといったカリフォルニアの農業地帯「セントラルバレー」域にまで都市圏が拡大してきている。マーセッドなどはサンフランシスコからの直線距離が150キロあり、ヨセミテ国立公園の入り口に近い。これらに比べればコンコードなど都市域中心に位置するとさえ言える。

サンフランシスコとサンフランシスコ湾に沿う「ベイエリア」の諸都市。遠くにそびえるディアブロ山付近にコンコードの街がある。Photo: Jitze Couperus, 2010 (Flickr, CC BY 2.0)
サンフランシスコ大都市圏の主要部。一般に「ベイエリア」と呼ばれている(9郡)。Wikimedia Commons: San Francisco Bay Area, CC BY-SA 2.0

大都市圏(CSA)がセントラルバレーにも拡大

アメリカの都市は市域が大きかったり小さかったりするので、統一的な理解を可能にするため、郡単位などで都市統計地域(Metropolitan Statistical Area、MSA)が設定されている。そしてさらに、中核MSAへの通勤が労働力の15%以上になっているなどの指標で、より大規模な合同統計都市地域(Combiened Statistical Area、CSA)が設定されている。このCSAが米国大都市圏を客観的に把握、比較する際の(一応)合理的な単位と考えていいだろう。(本稿では、MSAを都市圏、CSAを大都市圏とも表記する。)

表1の通り、サンフランシスコ大都市圏(正確には人口の大きい市域の順でSan Jose-San Francisco-Oakland, CA Combined Statistical Areaと呼称)は人口960万で、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ワシントンDC大都市圏に次いで全米5位のCSA域だ。9つの都市圏(MSA)、郡で言えば14郡から成る。)

このサンフランシスコ大都市圏(CSA)は2012年までは5都市圏(MSA)・10郡(サンノゼ都市圏にいわゆる「ベイエリア9郡」外のサン・ベニート郡が含まれるので10郡)だったが、2013年から南隣のサンタ・クルーズ都市圏(サンタ・クルーズ郡)とともに東隣のストックトン都市圏(サンヨッキン郡)、2018年から同じく東隣のモデスト都市圏(スタニスロス郡)、マーセッド都市圏(マーセッド郡)も組み込まれ、9都市圏・14郡体制になった。経済的つながり(労働市場のつながり)からセントラルバレー地域3都市圏もサンフランシスコ大都市圏の一部と判定されたことが注目される。拡大したサンフランシスコ大都市圏(CSA)の面積は3万5000平方キロと、関東地方1都6県3万2000平方キロを上回る。

ディアブロ山系のさらに東側には広大なセントラルバレーの平原が広がる。ここに州都サクラメントをはじめストックトン、モデスト、マーセッドなどの街がある。遠すぎて見えない。そのさらにかなたに4000メートル級のシエラネバダ山脈があるのだが、やはり見えない。見えても、地平線の上にわずかに顔を出す程度。
カリフォルニア周辺地図。Wikimedia Commons: Central Valley of California, CC BY-SA 3.0

表1 米国の大都市圏(CSA)

順位 大都市圏(CSA) 正式CSA呼称 人口・2018年推計 面積(km2) 人口密度 人口・2010年国勢調査 8年間での増加率
1 ニューヨーク圏 New York-Newark, NY-NJ-CT-PA  22,679,948 35,877 632 22,255,491 1.91%
2 ロサンゼルス圏 Los Angeles-Long Beach, CA  18,764,814 87,956 213 17,877,006 4.97%
3 シカゴ圏 Chicago-Naperville-Elgin, IL-IN-WI  9,866,910 27,542 358 9,840,929 0.26%
4 ワシントンDC圏 Washington-Baltimore-Arlington, DC-MD-VA-WV-PA  9,778,360 32,712 299 9,032,651 8.26%
5 サンフランシスコ圏 San Jose-San Francisco-Oakland, CA  9,666,055 35,280 274 8,923,942 8.32%
6 ボストン圏 Boston-Worcester-Providence, MA-RI-NH-CT  8,285,407 25,130 330 7,893,376 4.97%
7 ダラス圏 Dallas-Fort Worth, TX-OK  7,957,493 37,890 210 6,816,237 16.74%
8 フィラデルフィア圏 Philadelphia-Reading-Camden, PA-NJ-DE-MD  7,204,035 18,999 379 7,067,807 1.93%
9 ヒューストン圏 Houston-The Woodlands, TX  7,197,883 32,446 222 6,114,562 17.72%
10 マイアミ圏 Miami-Port St. Lucie-Fort Lauderdale, FL  6,913,262 19,307 358 6,199,860 11.51%

資料:US Census Bureau, “Cumulative Estimates of Resident Population Change and Rankings: April 1, 2010 to July 1, 2018 – United States — Combined Statistical Area; and for Puerto Rico“; Land area figures from Census Reporter.

この表を見てわかるのは、東部の都市圏が比較的面積が狭く、人口密度も高いのに対して、西南部(カリフォルニアやテキサス)の都市圏は広く、人口密度が低いことだ。西部の街の方が、モータリゼーション時代に発展し、郊外へのスプロール化が進行している。

また、東部の都市圏の人口増加率が低いのに対して、西南部の都市圏の人口増加率は高い。米国の人口が、大きく「フロストベルト」(霜地帯)から「サンベルト」に移行している。

人口規模でいうと、1位ニューヨーク圏、2位ロサンゼルス圏は不動だが、3位シカゴ圏、4位ワシントンDC圏、5位サンフランシスコ圏は拮抗している。この中でサンフランシスコ圏の伸びが最も大きく、今後3位まで浮上していく可能性がある。ワシントンDC圏については、別のところで触れるが、ボルチモアというかなり異質な独立した都市を一緒にしており、現在でも「4位」とするのは違和感のあるところだろう。

道3時間の「スーパー通勤者」

全国TVのABCニューズ地元『レコード』紙が、ストックトンからサンフランシスコまで毎日片道3時間かけて通勤しているシェリア・ジェームズさんを取材している。

「私は毎日朝4時に家を出るのよ」とジェームズさんが言う。4時20分ストックトン発アルタモント回廊急行(ACE)鉄道の通勤列車に乗り、ACEプレザントン駅で降り、中継バスで高速通勤鉄道BARTの西ダブリン駅に行く。そこからサンフランシスコのエンバカデロ駅まで乗り、運動も兼ねて30分歩いて7時15分頃、シビックセンターの職場に着く。

4時に家を出るジェームズさんは、午前2時15分に起きるという。30分の徒歩も含めて通勤時間が長いといっても決してタイトなスケジュールにはしない。ゆっくりストレスなく暮らせる生活がいいという。その辺が、はたから見ればきつい「スーパー通勤」生活を平穏に続けられている秘訣なのかも知れない。

「スーパー通勤者」全米で最も高率のストックトン、次いでモデスト

片道1時間半以上の通勤を行う人を「スーパー通勤者」という。アパート紹介サイトApartment Listの2019年調査によると、最新年の2017年にジェームズさんの住むストックトン都市圏(MSA)は、スーパー通勤者の割合が11.2%となり、全米最高だった(全米平均は2.9%)。2位が隣のモデスト都市圏で8.7%。その後にロサンゼルス近郊のリバーサイド、ニューヨーク、コネチカット州のブリッジポート、サンフランシスコ(*注1)、ワシントンDC、ボルチモアの各都市圏が続くが、農業地帯セントラルバレーの小都市圏が全米1位、2位を占めるのはいかにも異様だ。それだけ「デジタル革命の世界的首都」サンフランシスコ圏の影響範囲が拡大しているということだろう。2005年時点でもストックトン都市圏のスーパー通勤者割合は7.6%、モデスト都市圏が5.4%だったが(同年の全米平均2.4%)、そこからさらに3.6ポイント、3.3ポイント増えている。絶対数で言うと、この12年間でそれぞれ65%、80%の増加だ(全米平均は32%増)。

*注1 ここで6位に出てくるサンフランシスコ都市圏(MSA)は同大都市圏(CSA)内の中枢部分とも言える地域だが、ここでもスーパー通勤者が激増している点が注目される。2005年に2.2%だったスーパー通勤者が2017年に4.8%と2倍以上となり、絶対数でも70%増加した。都市圏(MSA)内の不便な場所からの通勤者の増加、あるいは混雑による通勤時間増大などが考えられる。

全米の平均通勤時間は片道26分で、1980年代、1990年代から5分程度しか増えていない。それどころか、人類の通勤時間は古ギリシャ、ローマの徒歩の時代から片道30分程度で一定している、との研究もある。そこから見ると、このサンフランシスコ大都市圏周辺部での通勤1時間半越え11.2%はかなり異様だ。(ただし、東京圏では片道1時間半以上の通勤者が16%で、さらに「異様」。)

全米一の高家賃:サンフランシスコ

このような突出した通勤圏拡大の主要因は、サンフランシスコ市など同大都市圏中枢部での家賃高騰だ。デジタル経済の活性化の中で、シリコンバレーを抱える大都市圏の所得が増え、高給取りが中枢部に住み、より貧しい層が郊外に押しだされる構造が生まれてい。

アパート賃貸検索サイトのズッパーの調査によると、2019年6月段階の2LDKアパートの都市別平均家賃は表2のとおりだった。全米の断トツ・トップはサンフランシスコ市で月3,700ドル(約41万円)だった。高家賃で有名なニューヨーク市(2,980ドル、2位)を引き離している。上位10位の中に、サンノゼ市(4位)、オークランド市(6位)と計3つのサンフランシスコ大都市圏内の市が入っている。

表2 都市別の2ベッドルーム(2LDK)家賃、2019年6月

順位 家賃
1 サンフランシスコ, CA $3,700
2 ニューヨーク, NY $2,980
3 ボストン, MA $2,500
4 サンノゼ, CA $2,430
5 ロサンゼルス, CA $2,250
6 オークランド, CA $2,240
7 ワシントン, DC $2,210
8 シアトル, WA $1,880
9 マイアミ, FL $1,790
10 サンタアナ, CA $1,780
 (全米平均) $1,216

資料:Zumper National Rent Report: June 2019

郊外外縁部でも家賃上昇

私も今回サンフランシスコでアパート探しをしたが、月額平均で1LDK3,700ドル(約41万円)、2LDK4,720ドル(52万円)の家賃では、まったく手が出なかった。かつて1ドル=360円時代に、アメリカの物価が段違いに高くてうめいたが、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の楽な時代を経て半世紀、このデジタル革命の震源から再び圧倒的な高物価社会が生まれていることに驚愕した。

人々がどんどん郊外(Suburb)、さらに郊外外縁部(Exurb)に広がる中で、最遠方の郊外でも、家賃、住宅価格が高騰してきている。別のアパート賃貸検索サイトApartment Listの調査によると、サンフランシスコ大都市圏外縁部のストックトンの家賃は2014年から2019年の5年間で28.6%上昇し、全米1位の上昇率を記録した(全米平均は11.3%増)。そこからさらに離れ、サンフランシスコから直線距離140キロのマーセッド郡リビングストンで起こっている住宅建設ブームをABCニュースがレポートしている。タイトルは「ベイエリア通勤者のおかげでリビングストンは住宅建設ブーム」。人口1万4000人の田舎町で毎月20戸の住宅が新しく建設されているという。マーセッド都市圏の住宅価格は2018年に10.21%上昇し、ストックトン、モデスト両都市圏をも上回ったという。

大都市周辺部の鉄道

片道3時間通勤のジェームズさんがABCニュースの取材に「公共交通機関の選択枝がなかったらこんな通勤は考え直したでしょう」と語っている。確かに直線距離100キロ超のかなたから毎日車を運転してくるのはきつい。渋滞で時間もかかる。ずっと近いコンコードに家があるのに、通うのが大変でサンフランシスコにアパートを借りている友人を知っている。

サンフランシスコに住んでいると、郊外鉄道というとBARTくらいしかなじみがない(それと、シリコンバレー方面に行くカルトレインか)。しかし、イーストベイの先まで来ると、BART以外の在来線鉄道が一定の役割を果たしていることを知る。BARTの北の終点リッチモンドから州都サクラメント方面に向かうAMTRAKのキャピタル回廊線(オークランドなどイーストベイ諸都市を経てシリコンバレー都市サンノゼにも接続)、BARTの東の終点アンティオックからストックトン、モデスト、マーセッド方面に向かう同じくAMTRAKのサンヨッキンズ線(アンティオックでは接続が悪いので上記BART北終点リッチモンドからこれに乗り替える人も多い)、そしてジェームズさんも利用しているアルタモント回廊急行(ACE)線だ。ACE線は、サクラメント、ストックトン方面からサンノゼまでを結んでいる。同線は、BARTの東南部終点ダブリン/プレザントン駅と微妙にずれているが、一応中継バスでつながる。サンノゼにはまだBARTがまだ届いていないが(BART南の終点ウォームスプリング/南フリーモントから北サンノゼに至る路線が今年末までに開業予定)、サンフランシスコからのカルトレインも含めある程度上記在来線で結ばれているということだ。サンフランシスコ大都市圏拡大の影響が大きいのは、こうしたBART、在来線でつながる街々だ。

州都サクラメント方面につながるキャピタル回廊線。通勤鉄道として利用されている。マルティネス駅で。
サンノゼのディリドン駅にACE鉄道の列車が停まっていた。ストックトン方面とをつなぐ。写真が汚れているのはカルトレインの列車の中から撮ったため。コスト的に難しいのだろう、窓が磨かれていない。

高速鉄道計画も視野に

アメリカの鉄道は斜陽化しているが、大都市圏の拡大で、近郊鉄道が息を吹き返しつつある。ACE線の場合、1998年に、ユニオン・パシフィック鉄道線を使った平日往復2便で始まり、2012年に同4便に拡大。この9月には土曜日往復2便も開始した。現行の「ACEフォーワード」計画によると、2023年までに平日往復6便にする他、将来的には平日10便、BARTとの接続強化、電化、複線化なども計画されている。現在は取り下げられているが、一時期、カリフォルニア高速鉄道(CAHDR)の一部としてACE線ルートを抜本的に整備する計画も出ていた。

カリフォルニアの高速鉄道計画は依然として迷走続きだが、一挙にサンフランシスコ・ロサンザルス間をつなぐ大プロジェクトを狙うのでなく、こうした大都市圏内の需要を基礎にした地道な鉄道整備からアプローチしていくことの重要性も指摘されている。歩行者、自転車、公共交通機関利用に優しい交通体系づくりを目指す情報サイトStreetblogは、在来線(米国の場合、新幹線と同じ標準軌)を活用しながら漸進的にCAHDRを進めていく方向を提示している。

依然として車通勤が主体

だが、現状のアメリカの通勤は、公共交通機関が発達している北カリフォルニアでも、依然として圧倒的に車主体だ。表3は、サンフランシスコ圏の通勤手段別割合を示している。9郡からなる湾岸都市域(ベイエリア)で、車通勤者は全体の約3分の2に上り、全米平均よりは低いが、まだまだ大勢を占める。中心部のサンフランシスコ市は米国の街としては例外的に公共交通機関利用が多く、車利用は35%と低いが、周辺部に行くにつれて車依存は高くなる。

出典データでは、ストックトン、モデスト、マーセッドなどサンフランシスコ大都市圏(CSA)周辺部の数字はないので、ベイエリア東端にあたるアラメダ郡リバモア市を代表例として表中に示した。ストックトン方面からの前述ACE鉄道が通り、極端に不便な場所ではないが、車利用は78.6%と、すでに全米平均を上回っている。

表3 サンフランシスコ圏の通勤手段の比率 2016年

SF Livermore Bay Area
(中心部) (周辺部) (都市圏) 全米
車・一人 35.0% 78.6% 64.5% 76.3%
カープール 7.1% 7.3% 10.2% 9.0%
交通機関 33.6% 4.3% 11.9% 5.1%
歩き 10.6% 1.2% 3.7% 2.7%
在宅勤務 6.6% 6.4% 6.3% 5.0%
自転車 4.1% 1.1% 0.6%
2.8% 1.1% 3.5% 1.2%

(サンフランシスコ湾岸都市圏<9郡からなる「ベイエリア」>の都市計画機関Metropolitan Transportation Commissionが、米国勢調査局データに基づいてまとめた数字。ただし、全米平均はBrookings Instituteのまとめによる。)

出典:Metropolitan Transportation Commission, “Vital Signs: Commute Mode Choice (by Place of Residence), ” with data provided by U.S. Census Bureau: American Community Survey,Updated on July 6, 2018; Adie Tomer, “America’s commuting choices: 5 major takeaways from 2016 census data,” October 3, 2017

「地球上で最も郊外化された都市域のひとつ」

今回私は、サンフランシスコ市内にアパートを確保できず、郊外のコンコードに住むことになった。それで良かった点は、この広大にひろがるアメリカ的郊外都市の側面がよくわかったことだ。中心部(サンフランシスコ市)のコンパクトさとは対照的に、この都市圏は、激しく外縁にスプロール化してきている。

かつてサンフランシスコに住んでいた私は、他の多くのサンフランシスコ人と同じく、このコンパクト都市サンフランシスコを誇っていた。それに比べてロサンゼルスは…と車社会と高速道路ばかりのロサンゼルスをこき下ろしていたものだ。しかし、この街を一歩出れば、外縁にはロサンゼルスと同様の広大な郊外住宅地帯が広がっている。サンフランシスコ湾岸都市域(ベイエリア)の拡大を分析したリチャード・ウォーカーらは、次のように書いている。

「サンフランシスコやイーストベイが、コンパクトな都市形態、高い借家率、上昇し続ける人口密度などの重要性を保っているとしても、ベイエリアは、地球上で最も顕著に郊外化された都市のひとつだ。都市化された地域の圧倒的部分は、低層地域であり、サンフランシスコやオークランドでも4階以上になることは少ない。スプロール化は北米都市域のゲーム名となっているが、カリフォルニアはこれを先導しており、ベイエリアは、悪名高い南カリフォルニアのいとこと同じくらいスプロール化している。」(Richard Walker & Alex Schafran, “The Strange Case of the Bay Area”

「南カリフォルニアのいとこ」とはもちろんロサンゼルスのことだ。サンフランシスコは、しばしばこのだだっ広く拡大したロサンゼルスとの対比で語られるが、実はサンフランシスコ圏もそれに似た同じ穴のむじなだと警告している。(さらに軽妙な日本語的表現で意訳すれば、「目XX、鼻XXを笑う」ということ。)

あるいは、サンフランシスコ市プロパーがかなり例外的な場所、という見方もできる。アメリカ的な郊外型都市がその周辺、そしてカリフォルニア・西部全域に広がる中、狭いサンフランシスコ市域内だけが、古くから(と言っても19世紀中頃からだが)発達した街として東部的都市の形態を残している。コンパクトな形状と人口の密集、バス、ケーブルカー、路面電車、地下鉄といった公共交通機関が発達し、高速道路さえ、強力な反対運動に会って市内を縦貫していない(南東部をかすめるが南北縦断はない)。

夏でも霧が出て寒いサンフランシスコの気候さえこの地域で例外的なものだった。荒涼とした岬が太平洋に突き出す地のサンフランシスコは、自然的にも社会的・都市論的にも特別な場所であることにだんだん気づいてきた。

「サンフランシスコ湾岸&セントラルバレー都市圏」へ

サンフランシスコ都市圏は、これまでベイエリア(湾岸地域)と呼ばれていた。サンフランシスコ湾に面する9郡で構成する都市域だ。しかし、大都市圏(CSA)の中にストックトン都市圏、モデスト都市圏、マーセッド都市圏などセントラルバレー地域もその中に含まれるようになってきた。もはや「ベイエリア」とだけは呼べない。「サンフランシスコ湾岸&セントラルバレー都市圏」と呼ばなくてはならなくなる。

「シリコンバレー」もそうだが、米国でいう「バレー」は谷とは少し違う。シリコンバレーは、(関東平野というのが大げさとしても)少なくとも大阪平野か濃尾平野程度はある平原だ。セントラルバレーの場合は確実に関東平野が5~6個入る大平原。カリフォルニアは産出額で米国第1位の農業州(テキサス、アイオアなどをしのぐ)で、柑橘類、穀物その他大量の農産物を日本その他外国に輸出している。その農業地帯の心臓部がこのセントラルバレーだ。ベイエリアとは風土も文化も産業もまったく異なる別の地域。それがサンフランシスコ大都市圏の射程に入ってきた。

「北カリフォルニア・メガリージョン」

サンフランシスコが早くから発展したのは、単調な海岸線が続くカリフォルニアで、ほとんど唯一、東京湾ほどの湾が入り込み、港湾として機能したことが大きい。その立地を背景に1848年のゴールドラッシュ以降、急成長を遂げた。

しかし、この地域は、湾が入り込むことからもわかる通り山がちの地形だ。サンフランシスコは坂の街として有名だし、ベイエリア湾岸沿いに若干の平野はあるもののすぐに丘陵地帯が迫る。ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスのように大平原にどんどん都市が発展していける条件がなかった。各地に独立性の強い自治体が生まれ、ニューヨークに追いつけ追い越せで20世紀初めに企図されたサンフランシスコの大型合併策は失敗した。のちにシリコンバレーとなるサンノゼ市周辺には比較的広い平野が開け、ここでスプロール化が進行し、現在では大都市圏内最大人口を擁する市となった。

「シリコンバレーの首都」を自認するサンノゼ市は広い平野の中にある。スプロール化が進み、ロサンゼルスに居るような気分になる。確かに遠くを見渡せば東西に山並みがあり、「バレー」と言えなくもない。中央遠方(東方向)に見えるのはベイエリアの最高峰ハミルトン山(1284メートル)。

が、現在、大都市圏の外縁がセントラルバレーにまで到達した。そこに至ればもはや地形の障害はない(夏の暑さという風土的な障害はある)。さらに爆発的に郊外化が進む可能性がある。そこにBARTのような高速通勤鉄道、新幹線型の本格的高速鉄道が導入されればさらに際限のない都市化が進むだろう。

こうした情勢を反映して、この地域の「メガリージョン」(巨大広域)の議論が起こっている。都市問題シンクタンク「サンフランシスコ湾岸地域プラニング都市研究協会」(SPUR)が2007年に発表した「北カリフォルニア・メガリージョン」(San Francisco Bay Area Planning and Urban Research Association,”Northern California Megaregion”)がその先駆けだろう。別途、詳しく検討するが、サンフランシスコ湾岸都市域、州都サクラメントの都市圏を中心に北カリフォルニア21郡を包摂し、東端ではリノ都市圏などネバダ州5郡にまで到達する広域都市圏域を想定している。2006年段階の人口1400万人が、2050年に2400万人となる人口急増が見込まれ、様々な問題が生まれることが懸念される。こうした広域都市圏の枠組みで迫らないと問題の解決策は得られない、というのがこのレポートの趣旨だ。

既述の通り、この提起が出た後の2010年代に、サンフランシスコ大都市圏(CSA)の中にストックトン、モデスト、マーセッド都市圏が相次いで取り込まれた。そして、現在、サクラメント都市圏でも「サンフランシスコ化(San Franciscanization)」といった新語、「ベイエリア難民」という言葉が生まれるほど、サンフランシスコ都市圏からの移住者が増え、徐々に通勤圏の中に組み込まれつつある。サンフランシスコからの移住者らしき若者たちについて「気温35度の中、上下黒を着てホット・コーヒーを飲み、事あるごとに『まじ暑い』『まじ喉乾いた』と言っているのはサンフランシスコからのミレニアル世代以外のだれだというのだ」という記述も見つけて笑わせて頂いた(セントラルバレーは夏非常に暑くなるが、サンフランシスコは寒いくらい)。

幹線道路に沿って東に延びていく住宅街。湾岸地区の北部ウェスト・ピッツバーグ付近。この先にストックトンやサクラメントがある。写真に見える水面はサンフランシスコ湾の北部にあたるスイサン湾。セントラルバレーの大河サクラメント川とサンヨッキン川がこの辺に流れ込んでいる。デルタ地帯が形成され、そのやや下流地域にあたる。

環境保護と都市化抑制策が都市圏を拡大させたか

拡大するサンフランシスコ大都市圏の中で、長大な通勤を強いられる問題を分析したウェンデル・コックスは、次のような指摘をしている。

「皮肉にも、この職と居住の隔絶は、少なくとも部分的には、サンフランシスコ湾岸地区の都市化を抑えるための制限的土地利用政策により促進された。都市プランナーらが無視していたのは、極めて抑制的な土地利用政策がもたらす住宅価格への影響だ。サンフランシスコ都市圏とサンノゼ都市圏は最近の調査(10th Annual Demographia International Housing Affordability Survey)で、世界85都市圏中、香港とバンクーバーに次ぐ第3、第4の住宅取得困難市場となってしまった。」(Wendell Cox, “The Evolving Urban Form: The San Francisco Bay Area,” 02/05/2014, Last Update: 10/18/2019)

毎週片道3時間かけてイーストベイの山並みを自転車こいで湾岸地域に行っている私にはこの言葉が突き刺さる。途中、住宅のほとんどない広大な自然・牧場地帯が広がっている。大都市圏全体から見ればむしろ中心部に位置するところに、こんな大空間が開けていていいものか。確かにこの地域の山がちの地形も影響しているが、都市化抑制と自然保全策の大きな成果でもある。

サンフランシスコ地域はジョン・ミュアの時代から自然保護運動が盛んで、シェラクラブ、地球の友、グリーンベルト連合など有力な環境保護団体を生み、「国立公園」制度を始め各種の自然保護制度も発明してきた。それによって素晴らしい自然の恵みを、私を含めてこの地の人々は受けている。しかし、それで貧しい人々がさらにかなたの郊外地域に押し出されているとしたらどうか。都市化を抑制しても、デジタル革命で発熱する労働市場がある限り、通勤圏は郊外(Suburb)のさらにかなたの郊外外縁(Exurb)に広がっていくだけだ。もちろん、だからと言って、志ある若者たちが集まり次々にスタートアップを立ち上げる活発な起業家経済を抑え込むのも間違っているだろう。弊害をすべて回避し有効に機能する持続的な都市・交通計画の解がどこかにあるはずだ。

それを考え、課題として受け止めながら、とりあえずは毎日、広大な自然と郊外都市の中でもくもくと自転車をこいでいる。

イーストベイの山並みと牧場。サンフランシスコ大都市圏の位置的にはほぼ真ん中にこんな大自然があっていいものか。