米国勢調査局の予測によると、2045年までに白人が米国人口の半数を割り、黒人、ヒスパニック(中南米系)、先住民、アジア系、太平洋系などのマイノリティ(被差別少数者の意)が全体として多数派になるという(US Census Bureau, 2017 National Population Projections Tables: Main Series)。いわゆる多数派マイノリティ(majority minority)、もしくはマイノリティ多数派(minority majority)の出現だ。予測の内訳は下記の通り。
米国の人種別人口割合(%)予測 | ||||
2016年人口基準 | ||||
年 | 2016 | 2030 | 2045 | 2060 |
白人 | 61.27 | 55.76 | 49.73 | 44.29 |
ヒスパニック | 17.79 | 21.07 | 24.60 | 27.50 |
黒人 | 12.45 | 12.76 | 13.14 | 13.59 |
先住民 | 0.74 | 0.73 | 0.70 | 0.67 |
アジア系 | 5.49 | 6.67 | 7.85 | 8.85 |
太平洋系 | 0.18 | 0.19 | 0.20 | 0.21 |
混成 | 2.09 | 2.83 | 3.78 | 4.90 |
資料:US Census Bureau, Population Projections 2017-2060, revised in September 2018
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- ヒスパニック(中南米系)にはあらゆる人種を含む。それ以外の人種はすべて非ヒスパニックの人口。
- 「混成」は、複数の人種を含むいわゆる混血。
あなたはアメリカ、アメリカ人にどういうイメージをもっていたか。あの「アメリカさん」と言えば、金髪と青い目の…。日本に開国を迫り、太平洋戦争で日本を駆逐し進駐してきたアメリカさんはそういうイメージだった(ろう)。そしてそのイメージはほぼ正しい。1950年までアメリカの人種構成は約9割が白人で、残りが黒人などだった。
しかし、1965年の新移民法が、それまでの人種差別的な移民制限を撤廃してから、中南米、アジア系が大量に入ってくるようになった。1970年代に425万人、1980年代に624万人、1990年代に978万人、2000年代に1023万人の移民が入り、内8割が中南米、アジアからの移民だった。2019年の入移民数は103万人で、トランプ政権下でも流入が衰える気配はない。途上国からの移民は出生率も高い。前記表の通り、2016年段階で白人人口は61%に落ち、マイノリティは4割近くに達した。この傾向が今後さらに続くことが予測され、2030年には白人56%、マイノリティ44%となり、2045年には白人が49.73%と半数を割る。2060年には白人44%、ヒスパニック28%、黒人14%、アジア系9%などとなっていく。
すでに6州がマイノリティ多数派
すでに州によっては白人が半数を割っている。人口最大のカリフォルニア州と西南部のニューメキシコ州で1990年代にマイノリティ多数化が完了し、2000年代にはテキサス州、ネバダ州も白人少数派化。もともと白人が多数を占めることのなかったハワイ州、1940年代から黒人人口急増で白人が少数化していた首都ワシントンDCを含め、2018年段階で、6州がマイノリティ多数化している。同年の白人割合は、ハワイ21.7%、カリフォルニア36.6%、ニューメキシコ36.9%、ワシントンDC37.0%、テキサス41.4%、ネバダ48.5%である。この他メリーランド州が50.2%で2020年までに半数割りが見込まれるなど、5州で55%以下になっている。
子ども世代が未来を先取り
マイノリティは出生率が高いため、若年人口ではすでに全米的にもマイノリティ多数化が起こっている。10年ごとの国勢調査が行われる2020年(今年だ)には、18才以下人口でマイノリティ多数化が起こると推定されている。つまり子どもたちの間では未来が先取りされているということだ。2027年には18~29歳、2033年には30~39歳、2041年には40~49歳の年齢層でも白人が半数を切る。高齢層で白人多数派状態が比較的長く続くが、それでも、2045年には全体人口で半数を割る、ということだ。2060年には18歳以下で白人36%、ヒスパニック32%といった人口構成となり、さらにその先の劇的変化が予測される。
近代史初めての実験
日本でも外国人が増えてきたが、国内で日本人の割合が25年後に半数を割る、などということが想像できるだろうか。私は外国人受け入れ積極派だが、日本人の人口が半数を切る、というのでは、ちょっとそれは…となる。アメリカではこれが起こりつつあるということだ。近代国家の歴史で移民流入により国の人種構成が変わる最初のケースとされる。人類史的な実験で、ものすごいことが起こっているとの印象をもつ。
「アメリカは日本と違って移民の国だから当然」と言う人も居るかも知れないが、しかし、本当にそう言い切れるか。少なくとも一旦は白人が90%以上になっていた国だ。それが半数を割る。その衝撃と困難は、日本など他国家の多数派民族の場合と同じなのではないか。
こうした予測は、今になって初めて出てきたわけではない。1970年代からの中南米、アジア系移民の増大で、当時から「21世紀の半ばまでに白人人口が半数を割る」と予測されていた。私も1990年の著書『多民族社会の到来』(御茶の水書房)他で、繰り返し指摘させて頂いていた。「次世紀の半ば頃」はまだ遠い未来だった。しかし、いよいよ「25年後」に近づいた。米国メディアも頻繁に取り上げるようになったし、米国民の深層心理に無視できぬ影響を与えていると思われる。トランプのような人が大統領に選ばれるのもその一端だ。
白人層からの反動
「米国白人マジョリティは永遠に消滅する」という記事で、社会学者のダッドリー・ポストンらは、アーリー・ホッチシルド著「Strangers in Their Own Land」に事寄せ、次のように指摘している。
「多くの白人は失望し裏切られたと感じている。まるで自分の国でよそ者になってしまったようなものだと。彼らは、トランプの中に自分たちの国を取り戻すため団結を促す白人男性の姿を見いだす。選挙運動で『アメリカを再び偉大に』『サイレント・マジョリティ(沈黙の多数派)がトランプとともに決起する』といったスローガンが掲げられるようになった。」(Dudley L. Poston, Jr. & Rogelio Sáenz, “The US white majority will soon disappear forever,” The Conversation, April 30, 2019)
しかし、米国白人は半数割れの衝撃を大っぴらに語れない事情がある。アメリカは移民の国だ。自由という理念の元につくられた国で、人種や民族は関係ない。少なくとも1960年代以降の公民権運動以降のアメリカは建前上そういう国なっている。移民で有色人種が多くなる?それがどうした?ということだ。それを問題にすること自体が人種差別主義とされる可能性がある。白人たちの不満は内にくすぶり、それがトランプ支持に見られるような保守主義台頭の背景にあることを見落としてはならない。
今年の大統領選が試金石
皮肉屋のヒスパニック系政治コンサルタント、ラオル・コントラレスは次のように言う。
「ほとんどの共和党支持者と白人ブルーカラー民主党支持者は現在、声高に不法移民反対を唱えるが、全ての移民を制限しようとするトランプ政権の動きを黙って認める。正規移民は支持し不法移民だけ反対するというが、それは策略だ。経済と財政を成り立たせる就労可能年齢白人が足りない。20年もたつうち、年金制度を支える税収と雇用を確保するため移民はさらに増えるだろう。未来の白人マイノリティはそれにどう対応するのか。2020年のトランプ再選キャンペーンでそれを知ることができる。多数派時代白人の最後のあがきが見られるだろう。」(Raoul Lowery Contreras, “In Just 2 Decades, Whites Will be a Minority in Multicultural America,”Times of San Diego, June 10, 2019)
多数になることは問題の解決ではない
一方で、移民マイノリティ側が、この白人少数化の歴史的趨勢を嬉々として語る傾向もないとは言えない。そうした論調に触れた時に私は思ってしまう。だから何なの(So what)?と。確かにマイノリティが増えれば、私も、珍しがられてじろじろ見られるようなこともなくなり、ありがたい(実際はそんな非礼はまず経験しないが)。しかし数を増やして問題解決というのは解決ではない。少数派でも尊重される多文化・共生の理念を目指していたのに、自分が多数派になることで問題が解決すると思ってもらっては困る。だれも絶対的多数派にならない多民族社会でどういう新しい秩序をつくるのか、その困難な課題が問われる時に、多数化するのを喜んでいるようではだめだ。
身近にも多文化社会
私の住んでいるコンコード(サンフランシスコ郊外、人口13万)も、この1年でめっきりマイノリティが増えたと感じる。かつては典型的な「白人中産階級の郊外街」で、1980年まで白人は人口の9割以上を占めた。しかし、2018年推計で49.6%と半数を割った。今年行われる国勢調査ではさらに減少しているだろう。
毎日行く公園のテニス場でも、つい1年前まで白人の人が多かったと思うのだが、今ではほとんどがヒスパニック(主にメキシコ系)やインド系の人だ。おお白人だ、と思っても、アクセントのある英語を話し、東欧あたりからの移民と推測される。私はなぜだかフィリピン系のおじさんのお相手になることが多い。
壁打ちテニス場は、手で壁にボールをぶつける競技にヒスパニックの若者たちが密集して興じている。私も使いたいのだが、薄暗くなるまで無理だ。マスクもつけず蜜もいいとこ。コロナなどどこ吹く風ということか。ヒスパニックの感染率は高いんだよ。
芝生ではやはりヒスパニックの若者たちがサッカーやバレーボール。時折イスラム帽をかぶった中東系の人たちが混じる。終わってから1列に並んでメッカの方向に礼拝をする。ちょっと方向が違うのではないか、と思っていたが、最近私の方が方向を間違えていたことに気づいた。彼らは正しく真東を向いて頭を垂れている。決定的重要事項だ。彼らが間違うはずはない。
先日、テニス場でいかにも白人らしく、しかもウオワオというアメリカなまり英語を話している若者が居た。おお、珍しい。もっと頻繁に来てよ。
グローバルな交流空間に
2045年まで私が生きているかどうかわからない。しかし、その時もしあなたがアメリカに来れば、どんな社会を見ることになるのか。「アメリカさん」のイメージは大きく変わっているだろう。一つの国というより、世界中から移民が押し寄せ、切磋琢磨して文化・産業を作り上げるグローバルな交流空間になっているだろう。ここから何かが生まれ、多様な出身をもつ人たちを通じてそれが世界にも拡散し、地球社会に大きな影響を与える場になっているだろう。日本人はそこに参加できているか。現在、日本の移民も留学生も少ない。どうだろう、あなたもこの地に乗り込んでこないか。

(初出:『地球号の危機ニュースレター 』大竹財団、2020年9月)