揺れる人種の概念 混成化が進むアメリカ

白人半数割りへの異論

2045年までに米国内白人が半数を割る、という予測には反論も出ている。計算上の異論ではなく、人種の区分けに関する異論だ。そのことを突き詰めると、アメリカの今後の多民族社会の様相がより具体的に見えて来るので、話が細かくなるが、検討する。

端的に言うと、アメリカで人種間の区別が徐々に不明確になり、人々が今後どういう自己意識をもつようになるか未知数の部分がある、ということだ。人種間の婚姻が増えて複合的な人種・民族的背景をもつ人々が増えている。また、急増しているヒスパニック(中南米系)の人たちにしても、もともとスペイン系や先住民系など複合的な人種・民族性を有する人々であり、特に2世、3世になっていった場合、アイデンティティがどうなるかは必ずしも自明ではない。いや、現在、白人、黒人、アジア系、先住民などと国勢調査で答えている人たちにしても、自覚的・非自覚的を問わず、多様な背景を有している可能性がある。「白人」の概念がより広い範囲に変わっていったり、あるいは逆に(差別の軽減にともなって)より多くの人々が自分のマイノリティ出自を明確にしていく傾向もあり、これら全体が、複合化を強めるアメリカ社会の中でどうなっていくかを見定めるにはかなり柔軟な思考が求められる。

なぜ人種など問題にするのか

あらかじめ本稿執筆の過程で感じた思いを語っておくと、なんでこんなあいまいで面倒な人種の統計など取っているのか、そしてなぜ私たちはそれを一生懸命「研究」しているのか、ほとほと嫌になる…、ということだ。これを読んでいくあなたも途中でそう感じるだろう。

恐らく未来には、人種を云々する時代を遠い昔として想起するときが来るだろう。

だが、現状ではこれが人々の社会行動を大きく規定しているのも事実だ。人種がいかに主観的、あいまいなものであっても、それが現実社会の中で強い意味をもっている以上、これを正面から対象になければならない。人種統計なしには、人種間の所得格差からコロナ感染率の差異に至るまで明らかにできないし、人種で左右される大統領選挙も、社会を揺るがす「黒人の命は大切だ」運動も適切に解析できなくなる。

多くの西欧諸国を始め、国によっては人種統計をとること自体人種差別的だから取らないというところもある。しかし米国はとっている。その姿勢は私はよしとする。困難な課題に取り掛かるツールを与える。難しくややこしい話になるのは覚悟で、この統計取得・解析にかかわるのは意味がある。あるいは、この統計取得がややこしくなる現象そのものの中に、人種をめぐる社会状況の変化が表現されている。

ヒスパニックの54%が「白人」

分かりやすい事項から検討していこう。(と言っても、やはりそれ自体複雑になる可能性があるが)。黒人を越えて現在最大のマイノリティ(被差別少数者)になっているのはヒスパニック(中南米系)の人々だが、少なくとも国勢調査上これは人種ではなく、エスニシティ(民族性)とされ、ヒスパニックであるかどうか聞いた上で、人種(白人、黒人、先住民、アジア系、太平洋系など)を聞いている。すると、2010年の時点で、ヒスパニックと答えた人のうち54.0%が白人、36.7%が「その他人種」と答えた。黒人との回答が2.5%、先住民1.4%、アジア系0.4%、太平洋系0.1%、複数人種の混交6.0%だった。多岐に分かれるのはもっともなことで、中南米からの人々はもともと多様な人種・民族が混交した人々だ。国によっては、ヨーロッパ系と新大陸先住民が混交していることが国民的なアイデンティティとなっているところもある。ヒスパニックの人たちも人種を問われて困惑しながら答えた様子がうかがわれる。37%もの「その他人種」にはヒスパニックやメキシコ人を人種として答えた人も多かった。複数人種の混交と答えた人の中には最近の人種間結婚だけでなく、スペイン系と先住民の混交だと考えた人も多かったろう。

出身国によっても自分の人種をどう見るかは違いがある。米国内ヒスパニック最大6集団(メキシコ系、プエルトリコ系、キューバ系、エルサルバドル系、ドミニカ系、ガテマラ系)の中では、キューバ系が自分を白人と考える割合が最も多く85.4%に及ぶ。通常50%前後だが、ドミニカ系は29.6%、ガテマラ系は38.5%と少ない。ドミニカ系は「黒人」と答える人が全体の12.9%と多いのも特徴的だ(U.S. Census Bureau, Hispanic Population: 2010, May 2011, p.14)。

ここで、ヒスパニックの約半数がすでに白人との自己意識をもっていることに注目すると、これが2世、3世中心になっていくとき、彼らはどういうアイデンティティをもつと考えらえるだろうか。スペイン語も話せなくなって、あるいは一般白人との婚姻なども増えるにしたがってアイデンティティは変わる可能性がある。ピュー研究センターの調査では、1世の場合は97%がヒスパニックのアイデンティティを持つが、2世になると92%、3世77%、4世以降50%と徐々に減っていく傾向が明らかになっている。

あるいは、正式統計ですでにヒスパニックの半分が人種的に白人だとするなら、これを額面通り解釈して、ヒスパニックが増大しても(非ヒスパニックの白人数はともかく)白人の全体数はそんなに減らないことになる。ヒスパニック性を度外視した米国内白人の割合は、2000年に75.1%、2010年に72.4%だった。2045年までに白人(非ヒスパニック白人)が半数を割るとの衝撃的予測を出した国勢調査局レポートの予測でも、ヒスパニック性を度外視した白人数で言えば、2030年74.19%、2045年71.12%、2060年67.99%と大きな下落はない。

人種は自己申告

なお、ここで確認しておくが、自分がヒスパニックかどうか、どの人種に属するかはあくまで本人の意識、自己判断に任されている。かつては少しでも黒人の血が入っていれば見かけがどうであろうと黒人とする(「一滴ルール」)など「客観的」(外から強制的)に決められていたが、現在はそうではない。人種や民族性というのは自分が育った環境、友人関係、受け継いだ文化、周囲がどうみるかなど、社会的な条件によって決まるものであって、必ずしも生物学・遺伝学的な決定事項ではない。特に複合的な人種・民族性を受け継ぐ人にとってこれは大切なことで、例えばオバマ前大統領はケニア人男性とカンサス州出身の白人女性の子であるが、本人は黒人としてアイデンティティをもち、その立場を内外に明確にしている。しかし、彼が国勢調査で「その他人種」「白人」「黒人と白人(の複合)」などと回答しても一向にかまわない。あくまで本人の認識が優先される。あるいはゴルフのタイガー・ウッズは、母方が黒人、中国系、米先住民の系統で、父方がタイ系、中国系、オランダ系の系統。ウッズ自身は自分は造語でカブリネシアン(Cablinasian、コーケジアン=白人、黒人、インディアン、アジア系の複合の意)だと言っている。国勢調査にどのような回答をしているか知らないが、2010年の国勢調査では「二つ以上の人種」ということで5つの人種をあげた人が8619人、6つの人種をあげた人が792人居た(p.4)。

複合的な人種的背景

2000年国勢調査から、人種について複数回答が可能になった。つまり「2つ以上の人種」の系統を有するマルチレイシャル(多人種)*1の人たちの人口統計が取られるようになった(「2つ以上の人種」という選択項目があるわけではなく、複数回答可能にすることにより、集計する側が、複数回答であれば「2つ以上の人種」に区分し数値化している)。

*1 日本語でわかりやすく言えば「混血」だが、血が混じるわけではないし、「ハーフ」も差別的だし、その逆に「ダブル」と言っても必ずしも正確ではないので、本稿では英語通りのマルチレイシャル、あるいは混成、複合などの言葉を使う。それでも完璧に適切な感じはしないが。(将来人類は皆マルチレイシャルになり、それが人類の一般的な姿になるのに、だれが何色で…などと悲しい区分を言い立てている現状は虚しい、という想念が浮かぶ。)

2000年に「2つ以上の人種」は全体の2.4%、2010年は2.9%だった。人種統計の区分の中でこれが最も急増しており、2030年に全体の3.57%、2045年に4.79%、2060年に6.24%となる予測だ。後述のように、異なる人種間の結婚が全体の17%、生まれる子どもの15%がインターレイシャルという調査結果もあるので、現在でも「二つ以上の人種」は実際はもっと多い可能性もある。混成でも何か単独の人種に回答すれば、そのようになってしまう。

今後益々増えるこの区分が、くだんの「2045年に白人が半数を割る」予測報告書の中では、白人でない方、つまりマイノリティの側に含まれるようになっている。つまり、「非ヒスパニック白人」を白人としたため、それ以外のすべての人種区分がマルチレイシャルも含めて自動的にマイノリティになるわけだ。これらの人々が今後どういう自己意識をもつかは後述の通り不確定部分が大きいし、そこまで考えなくても、複数の出自をもつ人々をすべて自動的に非白人側に分類してしまっていいのか。人種間婚姻は、当然ながら人口の最も多い白人が他の人種と結ばれるケースが最も多い。特に白人が多人種との結婚が多いというわけではない。白人の結婚の3.2%がインターレイシャル結婚であるだけだ。しかし人口が多いので、「2つ以上の人種」と答える人の83%が白人と他の人種との混成になる(黒人と他の人種34%、アジア系と他の人種29%などと続く。注:統計の性質上、合計は100%以上になる。U.S. Census Bureau, The Two or More Races Population: 2010, p.8)。白人と他人種との混成の子の場合、統計確率的には再び白人と結婚するケースが多くなる。こうした人々の微妙な立ち位置を無視して、機械的にマイノリティに区分けしてしまい、その上で「白人が半数を割るぞ」と主張するのは妥当なのか、ということだ。

皮肉にも、これはかつての「一滴」原則の復活になる、との批判がある。つまり、少しでも黒人の血が入っていれば他の32分の31が白人でも黒人と見なすという原則と同様、少しでも非白人との混交があれば、非白人の側においやってしまうことだという。例えば社会学者のリチャード・アルバは次のように言う。

「我々の人種差別的過去の長い時期、部分的に白人、部分的に黒人であったすべての個人は社会的、法的に黒人と規定されていた。この「一滴」原則はむろん現在では不条理なものとされているが、復讐であるかのように、統計的分類を通じて復活した。一方の親と祖父母がともに白人で、さらに白人の叔父、叔母、いとこにも囲まれた家族で育った部分的に白人の子どもがすべて非白人だと見なすことにはなんら正当性がない。」(Richard Alba, “The Myth of a White Minority,” New York Times, June 11, 2015)

人種間婚姻の急増

アメリカで人種エスニシティ間の結婚が増えている。かつては異人種間の結婚を禁止している州もあった。しかし、1967年の最高裁判決(Loving v. Virginia)がこれを違憲とし、公民権運動後の人々の意識の変化もあって、人種エスニシティ間結婚は急増した。1967年に全婚姻の3%だったものが2015年に17%に増えた。増加グラフを見るとほぼ直線的な増加だ。約50年で14ポイント増えるなら、あと50年たてば3割以上が人種エスニシティ間婚姻になる計算だ。(参照:Gretchen Livingston & Anna Brown, Intermarriage in the U.S. 50 Years After Loving v. Virginia, Pew Research Center, May 2017。)

なお、ここで言う「人種エスニシティ間婚姻」はエスニシティであるヒスパニックとの婚姻を含めたもの。ピュー研究所が独自に算出したもので、国勢調査局が言う「人種間婚姻」はこれを含まない。ただし、エスニシティと言ってもヒスパニックのみで、ドイツ系かイタリア系か、あるいは日系か中国系かなどのエスニシティは含まない。例えば日本人とインド人が結婚しても同じアジア系で、ヒスパニック系でもないので人種エスニック間結婚には数えられない。日本で言う「国際結婚」よりかなり狭い範囲を指している。それでもすでに現在6組に1組の結婚が人種エスニック間結婚になっている、ということだ。

ちなみに、この中でもアジア系の人種エスニック間結婚は多く、アジア系の全婚姻の29%は他人種又はヒスパニックとの婚姻だ。日本人(日系人)の場合はさらに多く、55%にのぼる。日系人と他のアジア系との婚姻も9%あり、全体の64%が日系以外と結婚している。(Pew Research Center, The Rise of Asian Americans, Updated Edition, April 2013)

人種間婚姻についての意識も変化している。ギャロップの世論調査によると、1959年に白人と黒人の人種間結婚を認める人が4%だったのが、2013年には87%にまで増えた。(まだ認めない人が13%居るということだが、それに驚くほどの社会情勢になってきたとは思う。)

このような状況を見れば、アメリカで依然として人種の問題は大きいが、長い目では急速に人々の混成化が進み、意識も変化していくとみられる。

白人とヒスパニックの混成背景をもつ人々が把握されていない

ヒスパニック(中南米系)*2は人種ではない、エスニシティ(民族性)だ、ということで別途統計がとられている。したがって、2000年から(二つ以上の人種の選択が認められて)「二つ以上の人種」という区分けが設けられても、「白人と黒人」「白人とアジア系」などの複合出自は選べても、「白人とヒスパニック」の複合出自は選べないことになる。別項目でヒスパニックであるか否かが選べるだけで、人種設問の中にある「二つ以上の人種」は白人、黒人、アジア系、先住民、太平洋系のうちの人種でなければならないわけだ。

前述の通り、ヒスパニックの人たち自身にも複合的な出自があるのだが、その人たちが白人や黒人の人たちと婚姻すれば、益々複合的な出自の子どもが生まれる。その複合性は統計上現れないことになる。しかし、実際上は、白人とヒスパニックの婚姻は非常に多い。白人と黒人の婚姻が全人種エスニック婚姻の11%なのに対して白人とヒスパニックの婚姻は42%に上る(白人とアジア系の婚姻も14%と多い)。最も多いのだが、ヒスパニックは人種ではないことになっているので異人種間婚姻にはならず、その子どもたちも「二つ以上の人種」区分には入れない。これが含まれれば「二つ以上の人種」人口はさらに多くなるはずだ。

*2 「ヒスパニック(中南米系)」という言葉をすでに説明もなく使ってきたが、突き詰めるとこれは難しい言葉だ。ヒスパニックとは元来「スペイン系の」という意味であり(1970年以前には「ヒスパニック」でなく、西南部5州で「スペイン系姓の人」の統計がとられていた)、中南米のスペイン語圏だけでなく、ヨーロッパのスペインの人々も含まれてしまう。逆にブラジルなどポルトガル語圏の人は含まれない。他に、あまり彼ら自身に一般受けはしていないようだが、ラティノという言葉もある。これはラテンアメリカ人(スペイン語でlatinoamericano)を指し、これならブラジルも含まれヨーロッパのスペイン人は含まれない。そこで「ヒスパニックまたはラティノ」という言い方をすればほぼ中南米系を指すことができる。しかし、中南米にもドイツ系や北欧系などラテン系以外の人々もいる。こういう人が米国に移住してきたときなおラティノやヒスパニックと言えるのか。またジャマイカなど英国植民地時代が長く英語圏となった中南米諸国もあり、これもラティノ、あるいはヒスパニックと言えない可能性がある。そういう意味では日本語の「中南米系」はうまい言い方なのだが、これを英語で言うとCentral and South Americansにしかならず、米国人でもあるだろう彼らをこのように呼ぶのは変だ。白人ならEuropean American、アジア系ならAsian Americanと呼んでもおかしくないが、中南米系をそう呼ぶとおかしい。結局、南北米大陸はすべてアメリカなのに、英語ではなぜ米国だけアメリカと呼ぶのかというより大きな問題にも突き当たってしまう。

本文でも触れているように、少なくとも国勢調査局の規定では、ヒスパニックは人種ではなく、エスニシティ(民族性)だ。ヒスパニック内に白人(スペイン系など)、先住民、黒人、アジア系、太平洋系など多様な人種がいる、という位置づけだ。1930年の国勢調査では、当時増大していたメキシコ系移民を対象に、白人枠外の「メキシコ人」という人種が設定された。これがメキシコ政府から抗議を受け、1940年国勢調査では白人の中に戻されたという経緯もある。ただし、後述の通り、現在でもヒスパニックの人々の中にはヒスパニックを人種ととらえ、人種調査の中にその選択肢がないため「その他人種」にしてしまう人が多い。一方、国勢調査局の方でも、ヒスパニックをエスニシティとしながら、最終的にはヒスパニックを有力なマイノリティ集団として、非ヒスパニックの白人、黒人、アジア系などと対等に比較し、例えば「白人(非ヒスパニック白人)が少数化する」などという予測を出したりしているわけだ。イタリア系や北欧系、あるいはアラブ系などもエスニシティだが、まったく別の取り扱いをされていることになる。ただし、それが非合理かというとそうでもなく、ヒスパニックの人々は所得他あらゆる面で差別的な地位にあり、多くが異なる言語(スペイン語)を話すなど、明らかなマイノリティ集団を形成しており、これを集団としてとらえないことの方がむしろ問題が大きいと思われる。

3番目に多い「その他人種」

米国国勢調査の人種統計で奇妙なのは、「その他人種」が6.2%と非常に多いことだ。白人72.2%、黒人12.6%に次いで多い。アジア系4.8%、先住民0.9%、太平洋系0.2%よりも多いのだ。普通ならばこれらすべての人種統計が出て、そこに漏れた若干の人々が「その他」になるはずだ。ところが上位の3番目ですでに「その他」だ。2020年にはこれが黒人の数を越えて2番目になるのではないかとの予測もある。「その他」が2番目になるというのでは、これは分類の欠陥以外の何ものでもない。

こうなってしまう最大の理由は、ヒスパニックの人たちが自分たちの「人種」を「その他人種」にすることが多いからだ。ヒスパニックは人種ではないと口をすっぱく注釈しているのに、「その他人種」を選び、具体的な記述で自分たちは「ヒスパニック」「ラティノ」「ラテンアメリカ人」などと書いている。「メキシコ人」「ガテマラ人」などの国民名を書く人も居る。ヒスパニックの人たちがいかに既存の人種分類に違和感をおぼえ、「その他」で独自の人種を書きたくなっている事情をよく物語っている。

また、「その他人種」にヒスパニックの人たち以外に、「マルチレイシャル」などと書く人もいる。本当はそういう人は複数の人種を選ぶよう指示されているのだが、何らかの理由で「その他人種」の中でそう書いている。既存の人種分類に適当なものがない、あまりにも複合しているので個々にチェックを入れるのが面倒になった、どういう人種の複合なのかすでに明確ではなくなっている、など様々な事情があると推測される。

個人の人種区分が変わる

問題はさらに複雑になってくる。せっかく人種統計をとっても、調査によって自分の人種分類、もしくはヒスパニックか否かの回答を変える人が大勢いるのだ。すでに述べたようにこうした回答は、あくまで本人の自主申告だ。何か身分証明書のようなもので決まっているわけでなく、生物学的な検査で決められたわけでもない。あるいは「二つ以上の人種」などでも、例えば黒人と白人の比率が何対何なのか、などは聞いていないし答えていない。おじいさんの代、ひいおばあさんの代に一人だけ例えば先住民の先祖がいたとして「二つ以上の人種」と答えることができる。あくまで本人の判断だ。

ミネソタ大学のカロリン・リーブラーらが国勢調査局の協力を得て行った全数跡追い調査(CARRA Working Paper #2014-09)によると、2000年と2010年の国勢調査において、978万2918人がヒスパニック・人種統計で異なる回答をしていた。全体の6.1%に当たる。そりゃあそうだろう、上記見たように人種区分がこれだけ複雑なら、前回何と答えたか忘れて別の区分を書いてしまうかも知れず、あるいは遠い先祖に先住民が居るが、普通白人として暮らしているので、面倒だ、白人にしておこう、と書く人もいるかも知れない。あるいは自分のアイデンティティを真剣に悩み、覚悟を決めて別の区分に書く人もいるかも知れない。状況はいろいろ想像できる。

全数調査と言っても、2000年と2010年の間に生まれたり移民してきたり、あるいは逆に一時滞在だったので帰国したり、亡くなったりした人もいるので、人口(2000年で2億8142万人)すべてについて比較はできない。その他、必ずしも本人が直接回答したものでないケースなど誤認やエラーが生じる可能性のあるものをすべて除外して、1憶6170万185人についての全数調査を行った。その内6.1%が異なる回答をしていたということである。(除外した人の多くはヒスパニックなど回答変動の大きい集団の人々なので、実際の回答変動割合はより大きい可能性がある。報告書は、その辺を修正した推計値も出しており、除外がなければ全体の8.3%が異なる回答をしたとしている。)

こうした跡追い調査はこれまでもサンプル調査の形で行われてきていたが、全数調査を行ったのはこれが初めてだ。(これまでの調査の結果もこの調査結果報告書で紹介されている。)

概ね一貫した回答をしているグループと異なる回答をする人が多いグループがある。非ヒスパニックの白人、黒人、アジア系などでは9割以上が同一回答をしている。例えば非ヒスパニック白人では2つの国勢調査で97%に当たる1億2277万人が同一の回答をした(しかし、それでも約200万人が別の人種区分に移り、約139万人が別の区分から移ってきている)。これに対し、例えばヒスパニック系の白人の場合、同一回答をしていたのは48%のみで(491万人)、199万人が別区分に移り、323万人が他区分から移ってきた。ヒスパニック系の場合、人種区分回答で「その他の人種」が2番目に多いのだが、これの場合は同一回答を続けたのは34%のみで(218万)、284万人が他に移り、144万人が他から移ってきた。いずれも「ヒスパニック白人」との間の往来が中心で、同区分に移ったのは238万人、同区分から移ってきたのは124万人である。

また、「二つ以上の人種」の背景をもつ人々の場合は、人種をどう答えるかの幅が大きく、ヒスパニック、非ヒスパニックの場合とも、一貫した答えをする人の方がむしろ少ない(10~30%程度)。先住民(アメリカ・インディアン、アラスカ先住民)、太平洋系(先住ハワイ人と他の太平洋諸島人)などの人々も、同一回答をする人が少ない(非ヒスパニック系で50%前後、ヒスパニック系で10%程度)。人口が少ないと人種間婚姻率が高く複合的な背景をもつ人が多いためとされる。

すでに人種は混成している

遺伝子テスト企業大手23andMeが2014年にまとめた報告書によると、米国白人の3.5%が遺伝子的に1%以上のアフリカ系(黒人)の祖先を有していた。1.5%は2%以上のアフリカ系祖先を有していた。白人全体の平均では、アフリカ系0.19%、先住民系0.18%の祖先を有していた。黒人は平均で73.2%がアフリカ系、24.0%がヨーロッパ系、0.8%が先住民系と混成度が高い。もともと人種的に複合的だったラティノ(中南米系)は18%が先住民系、65.1%がヨーロッパ系、6.2%がアフリカ系だった。

23andMe社は、現在99ドルで一般消費者向けに全ゲノム検査を行っており、2019年初めまでに900万人の検査を行った。その2014年調査当時までの被検者中で、科学研究への情報提供を承諾した人について調査を行った。自主申告した人種でいうと白人148,789人、アフリカ系アメリカ人(黒人)5,269人、ラティノ(中南米系)8,663人のゲノムを解析した。米国黒人がかなりの程度白人との混成であることは知られていたし(少しでも黒人の「血」が入っていれば黒人とされた時代もあった)、ラティノが多様な祖先の混成であることも大きな驚きではなかったろう。しかし、純粋に白人と思っていた人が実は黒人の祖先も受け継いでいたことを知った場合は「自分と家族に爆弾がさく裂したようなものだった」と言う人もいる。驚きに満ちた家族史の秘密をたどる旅がはじまるのだという。これから混成の増加、ではない。現時点でも人種はある程度混成しているのである。

この研究は、地域によって混成度合いが異なることも明らかにしている。詳しくは報告書を見て欲しいが、白人で黒人の祖先をもつ人々は南部に多く、サウスカロライナ州、ルイジアナ州では白人の12%がアフリカ系の先祖を有し、5%ではその割合が2%以上だった。

オバマ元大統領を見てもわかる通り、黒人と白人の混成の場合、自分を黒人と意識する人が多い。まわりがそう見るからでもあるが。このゲノム解析研究では遺伝子的にアフリカ系28%付近を境に自分を黒人と意識する人が多くなる、という知見が示されていていろいろ考えさせられる。それ以下の場合は、白人として生きる場合が多く、それがある程度可能だということでもある。かつての人種差別国家アメリカで黒人ヘリティジを隠し白人として生きた人々の苦悩を描いたA Chosen Exile: A History of Racial Passing in American Lifeが想起される。

上記の通り、白人との自己意識をもっている人のうちでのアフリカ系、先住民系の祖先率は小さいが、白人の数が多いので数は多くなる。国全体では、約600万人の白人がアフリカ系の祖先をもち、約500万人が1%以上の先住民祖先をもつ計算になる。こうした事実も踏まえて、同研究は結論部分で次のように言う。

「自己申告でヨーロッパ系アメリカ人と名乗った多くの人々にアフリカ系、先住民系の背景が含まれる複数のエビダンスを確認したことで、我々の研究結果は、ここ数百年、一部アフリカ系、先住アメリカ系の人々が白人社会に入ってきていたことを示した。その割合は高くはないが、この人口の多い集団ではわずかでも非ヨーロッパ系祖先が確認されれば、それは数百万単位となる。我々の研究は、17世紀(約12世代前)の米国史初期段階が、こうした混交を生んだ集団間相互作用の時期だったことを示唆する。/大規模なサンプルサイズ、高密度の遺伝子型データ、正確で堅固な地域的祖先推定などが、遺伝子上の祖先を示す微細な差異の識別を可能にした。現代は人々の移動が大きいが、諸個人に残された遺伝子的エビダンスが歴史的な人々の移動、居住パターン、混交のプロセスをよく要約している。だが、我々の研究で最も重要なことは、米国での数世紀にわたる混交過程の跡を示すことにより、隔絶し重複しない生物医学的容器に諸個人をグループ分けするような文化上のラベルを無意味にしたことだ。」(Katarzyna Bryc, et al., “The Genetic Ancestry of African Americans, Latinos, and European Americans across the United States,” The American Journal of Human Genetics 96, January 8, 2015, p.50)

「白人少数化」予測で保守派が台頭

「2045年までに白人が半数を割る」予測についての議論を紹介するため、前提諸事実を説明するつもりが少し長くなった。次に、この予測への有力な反論を紹介していく。ニューヨーク市立大学(CUNY)の社会学者リチャード・アルバは2016年初頭の論文で次のように言う。

「今世紀半ばまでに白人マジョリティが消失することが今、確定事実かのように広く受け止められている。国勢調査局の人口予測がこうした推測を力づけており、右翼も左翼も自分たちに都合のいい形にそれを利用している。右翼では、白人マジョリティの立場が終わることへの不安から、国の多様化に対する保守的な反動を燃え上がっている。左翼では、多くの進歩主義者たちが民族人種的ハイアラーキーの不可避的な転換を予測する。」(Richard Alba, “The Likely Persistence of a White Majority,” The American Prospect, January 11, 2016)

彼の危機感は的中し、その年の11月には「保守的反動」の代表のようなトランプ大統領が選出されてしまった。それについて再びアルバが言う。

「2016年大統領選について多くの分析によると、その想定外の結果は、人口的変化で地位を奪われる白人の不安に起因している。社会心理学者たちも、白人たちがマイノリティ化のシナリオに反発し、政治的に保守的なスタンスをとり、マイノリティに否定的な態度をとるようになったと繰り返し指摘している。アメリカのあらゆるグループがマイノリティ集団の規模を大げさに語る中、白人たちは自身らのマイノリティ化が近未来、あるいはすでに現在起こっていると見るようになった。大多数の白人が自分たちは差別されていると思うようになった。」(Richard Alba, “What Majority-minority Society? A Critical Analysis of the Census Bureau’s Projections of America’s Demographic Future,SAGE Journal, August 30, 2018)

「一滴ルール」の復活

アルバは、2点において白人のマイノリティ化が誇大化されているとする。一つは、すでに述べたが、国勢調査局の立論では、ヒスパニック系白人や「二つ以上の人種」など複合的な背景をもつ人々をすべて非白人の側に置いてしまうことだ。複合していない白人(非ヒスパニック白人)のみを白人とし、それが少数化するとしている。結果的に、かつてのように、少しでも非白人の血が入っていれば非白人にする「一滴ルール」に陥っているとする。「もし我々が、逆の極端に立ったらどうか。少しでも白人の系統が入っていれば白人とする白人一滴ルールを当てはめる。すると、半数化が予測される今世紀半ばでも白人人口は4分の3を占めたままだ。むろん、こうした両極端は信じがたい。両極の間のどこか中間に落ち着くことになろう。」(前出“The Likely Persistence of a White Majority”)

アルバは、悪いイメージしかなくなった「同化」という言葉をとらえ直し、主流派(メインストリーム)と移民・マイノリティの間で、どのような相互作用が起こるか具体的に分析しようとしている社会学者だ。社会学研究学会(SRA)の会長も務めた学界の重鎮でもある。多文化主義の理念はいいとしても、実際に同化に類似した統合過程は起こるし、そこでメインストリーム側、移民マイノリティ側双方がどう変わるかを含め実際のプロセスを具体的に観察する姿勢が必要だとし、この分野に多くの刺激を与えている。

この問題についても彼の視点は冷静で、将来どうなるかについて性急な結論を下そうとするものではない。次のようにも断っている。「私は、混成したグループが白人に数えられるよう主張しているのではない。彼らの立場は、白人・非白人の二元的構造の中では極めて不明確なものになると言っている。彼らは白人に近い家族的つながり、そしてマイノリティ家族とも近い中で人生を開始する。この意味で彼らは中間的なグループだ。アメリカの未来に厳格な二元構造が適用されることが適切なのかを提起している。」(前出“What Majority-minority Society?”)

南欧・東欧系などの同化

白人少数化が誇張されている第2の理由は、人種間の社会学的関係を固定的にとらえすぎているということだ。支配的な人種・民族性(メインストリーム=主流派)と差別される側の人種・民族性(マイノリティ=少数派)の分裂は、時代とともに変容する。アルバは、かつてささげすまれ同化不能と見なされていた南欧、東欧、アイルランド系、ユダヤ系の20世紀初頭移民たちを例に出す。

「二つ目の理由は、メインストリームとマイノリティの境界はあいまになる可能性があることを無視していることだ。米国は、アイルランド系、イタリア系、ユダヤ系など拒絶されていたマイノリティがメインストリームに同化していくのを見てきた。」(前出“The Likely Persistence of a White Majority”)

「今後どのようなことが起こるかについて、別の大きな社会的転換の時期を振り返ることで、よりよく理解することができる。第二次大戦後数十年で起こったアイルランド系カトリック、南・東ヨーロッパ系カトリック、ユダヤ人などいわゆる白人エスニックに起こった大規模な同化の時代のことだ。戦前までこれらの民族集団は白人主流派の外縁に置かれ、フランクリン・ルーズベルト大統領が1942年の腹心との会話で「白人プロテスタント指導層に従属させられ苦しんでいる」と言及されるような状態だった。彼らが同化する可能性について否定的な見方が支配的で、彼らの宗教は長らく白人プロテスタントに疑惑の目で見られていた。しかし、1970年までに分断線は急速に薄らいでいった。/なぜこのような大きな変化が短期間のうちに起こったのか。20世紀前半には、増大するカトリックの政治力や、ユダヤ系の急速な台頭による社会的経済的脅威を恐れていた白人プロテスタントは、なぜこうした『エスニック』を受け入れるようになったのか。」(Richard Alba, “Achieving a More Integrated America,” Dissent, 57(3), June 2010, p.57-58)

「20世紀半ばに白人社会で宗教的差異は大きな意味をもった。カトリック、ユダヤ教、プロテスタントは明瞭な集団で、それぞれの生活は多かれ少なかれ自集団内に限られていた。しかし、わずか数十年の間に差異は薄れ、境界を越えた相互作用が拡大した。カトリックやユダヤ教であることをやめたわけではない。しかし、これらのアイデンティティの公的な顔はあまり決定的なものはなくなり、日常生活に常に侵入してくるものでなくなった。ユダヤ系の人々の人種間婚姻は、1950年に約10%だったものが、2013年には58%まで上昇した。」(Richard Alba, “The Myth of a White Minority,” New York Times, June 11, 2015)

確かに少し前まで、米国の主流は白人・アングロサクソン・プロテスタント(WASP)だという言い方をよく聞いたが、今はあまり聞かない。それに代わって「白人」と「非白人」の構図で人種関係をとらえるようになったと思われる。アイルランド系、南・東欧系、ユダヤ系などもこの「白人」の中に入ってしまった。

戦後の経済拡大期に同化が促進

なぜこのような変化が起こったのかについてアルバは興味深い分析を提起している。第二次大戦後の空前の経済成長の中で、新参ヨーロッパ移民たちは、WASPたちと競合することなく中産階級の中に上昇していけたからだとする。現在だと、限られた国内雇用をめぐって新移民と白人労働者が利害対立関係に置かれる。しかし戦後経済成長期はそうではなかった。「変化は大規模な非ゼロサム変動の時期に起こり、尋常でない繁栄の時代が、有利な白人プロテスタントたちの地位を崩すことなく、労働者階級エスニック白人たちに上昇の水門を開けた」とする(前出“Achieving a More Integrated America,” p.58)。

また、これも経済拡大現象の一部と言えるが、大規模な「郊外」の発達や高等教育の拡充についても触れている。自動車交通の発達と高速道路網の拡充にともない、この時期、大都市周辺に広大な住宅街が形成されるようになった。瀟洒な一戸建て住宅が広範囲に並び、まさに白人中産階級を象徴するような米国特有の「サバービア」が形成された。居住空間としても、既存中間層と競合することなく、潤沢なスペースが供給されていった。

中東系は「白人」か

なるほど、こうした時代的な背景分析も刺激的で検討の余地がある。しかし、ヨーロッパ新移民たちの同化にはもっと単純な事情もあったようにも思われる。人種や偏見は主観的なものだ。1965年新移民法以降、中南米やアジアから多様なバックグランドをもった移民たちが大挙して押し寄せたため、「エスニックな白人」たちは相対的に目立たなくなっただけではないか。大いに異なる人々がたくさんいる中で、少し異なるヨーロッパ出身者は、次第に「白人」の中に紛れ込んでいった。そんな単純な理由で見方が変わってしまうのが人種や民族の観念とは言えないか。

戦後ドイツ社会の代表的なマイノリティはトルコ系外国人労働者だった。同国内に現在でも300万人が暮らし、差別的な地位に置かれている。しかし、彼らが、もっと多様な人々が暮らす米国に来たら、マイノリティであり続けるだろうか。

有名な消費者運動家で大統領選にも何度か出たラルフ・ネーダーという人がいる。私が尊敬する市民活動家の一人で、彼の運動の一翼を担う一人を日本に呼んで講演キャンペーンを行ったこともある。このネーダーはレバノン系移民の2世だ。しかし、彼をアジア系とか中東系と思ったことはない。彼もそんな自分の出身についてまるで問題にしておらず語っていない。ということは、「白人」だったのだろう。私の観念の中でも一般的に白人だったと思う。

米国国勢調査局は白人を次のように定義している。「『白人』とは、ヨーロッパ、中東、北アフリカ出身の人を指す。自分の人種を『白人』と申告するか、アイルランド人、ドイツ人、イタリア人、レバノン人、アラブ人、モロッコ人、コーカサス人などと申告する人を含む。」(U.S. Census Bureau, Overview of Race and Hispanic Origin: 2010, March 2011, p.3)

トルコやレバノンばかりでなく、中東全体、アラブ系の人々、北アフリカ系の人々も白人としている(ということは、白人を「ヨーロッパ系アメリカ人」と言い換えるのも厳密には間違いということになるということだ)。現在、300万人を超えたと言われる中東からの移民者の間から、自分たちを正確に表せる人種区分を設けるよう要望が出ている。「中東・北アフリカ系(MENA)」「南西アジア北アフリカ系(SWANA)」などが提案されている。しかし、まだ実現していない。現状では、彼らの80%が白人と回答しているという。国勢調査局の規定を厳密に言うと、イランまでが白人で、パキスタンから東がアジア系になるということだ。インド系も「インド・ヨーロッパ語族」に属し、コーカソイドに入ると思うのだが。

人種が混成していく先は

アルバは人種の区別があいまいになってくる要因としてやはり人種間婚姻や、複合的な背景をもつ子どもたちの増加を重視している。例えば次のように言う。

「現在、米国で生まれる子どもの14~15%は、複合エスニックか複合レイシャルだ。2000年にはこれが11~12%だった。これら子どものほとんど(訳注:約80%)が一方の親は白人という事実にもかかわらず、国勢調査の分類上の欠陥から、ほとんどが非白人に区分されてしまう。/この事実は重要だ。部分的に白人の背景をもつ個人は社会学的な意味で白人のようにふるまうからだ。彼らは白人の多い地域で育ち、大人になって白人の友人をもち、自分がほぼ白人、または部分的に白人と考え、白人と結婚もする。投票行動まで社会学的に同様の白人たちと同じになるかはまだわからないが、その可能性は高い。」(Richard Alba, “The U.S. is becoming more racially diverse. But Democrats may not benefit.” Washington Post, Jan. 6, 2017)

こうした見解の根拠としてアルバはまず、所得の面で、混成的家族がメインストリームの白人家庭と類似していることを示す(前出“The Likely Persistence of a White Majority”)。アジア系家族の所得は白人家庭の所得より高いが、アジア系と白人の混成家庭は、両者を越え最も高い所得層となっている。ヒスパニックと白人の家庭(全体の39%を占め最も多い混成家庭パターン)では、父が白人の場合、一般白人家庭とほぼ同じ所得となる。父がヒスパニックの場合は、白人のみの家庭より低い所得となるが、それでもヒスパニックのみの家庭よりは高くなる。アルバは「所得は家族がどこに住むかを決定する主要因だ」と指摘した上で次のように続ける。「この所得の性格からから、白人とマイノリティの背景をもつ子どもが、マイノリティ集住地区外の白人の多く住む地域で育つことが示唆される。こうした複合的背景をもつ子どもたちは、白人家庭の友だちと遊び、小さい頃から彼らと仲良くすることを学ぶ。」(前出“The Likely Persistence of a White Majority”)

ただし、黒人と白人の混成家庭は例外で、父が白人の場合は白人のみの家庭の所得に近いが、父が黒人の場合は黒人のみの家庭と近くなる。黒人は米国社会の中でより厳しい差別の中に置かれるため、これ以外の各種指標でも混成家庭が一般黒人家庭と近くなる傾向があるという。

アルバはまた、ピュー研究所が行った人種的民族的に複合した人々に関する調査(Multiracial in America)を多く援用している。そこで示された調査結果によると、成人で複合的な人種民族的背景をもつ人の数は、国勢調査の数字より3倍以上多かった。国勢調査では成人全体の2.1%だったが、21,224人のサンプル調査では6.9%に上った。また、1,555人のマルチレイシャルの人を対象にした調査では、自分をマルチレイシャルと意識していないと答えた人が61%に上った。白人とアジア系の背景をもつ人では、自分が白人の方に近いと感じ(60%)、白人の方により受け入れられていると感じ(62%)、白人側の家族との付き合いが多い(61%)と答えている。ただし、ここでも、白人と黒人の混成の場合では、逆に黒人側とのつながりが強いとする結果が出ている。

アルバはまたメキシコ系アメリカ人の人種間婚姻の30年以上にわたる跡追い調査を紹介し、その子どもたちの結婚状況データも援用している(Edward E. Telles & Vilma Ortiz, Generations of Exclusion: Mexican-Americans, Assimilation, and Race, 2008)。それによると、メキシコ系アメリカ人の人種間婚姻から生まれた子どもたちは一般メキシコ系アメリカ人たちに比べ約5倍、人種間結婚をする割合が高く、その相手の多くが非ヒスパニック白人だった。アジア系の人種間婚姻の子どもについても同じようなデータが得られている。配偶者選択は、その人々がどのようなコミュニティに帰属しているかをよく表す指標だ。これらのデータから、「複合的背景をもった家族の子どもたちを人種的民族的マイノリティの側に含めてしまう国勢調査局の慣行には深刻な疑義をはさまざるを得ない」としている。

「メインストリーム」も変わる

アルバは、複合的な背景をもった人々が白人社会の中に同化・吸収されてしまうとだけ言っているわけではない。それまで非ヒスパニック白人で占められていた主流(メインストリーム)自体が、徐々に拡大し変更を迫られていくともとらえてる。そこに可能性を見出しているわけだが、皮肉なことながら、逆にそのことによって、拡大した新メインストリームが、急速な社会の転換への抵抗勢力として存在していく可能性もあるとしている。

「人種的不平等の根絶は、現実的目標というよりユートピア的な希望と言った方がいい。将来マイノリティが多数派になれば、民主主義的社会では、既存の人種的秩序がくつがえるという漠然とした期待があるが、これは、進行しつつある同化のプロセスを考慮に入れていない。白人とともに、少なくとも多くのアジア系、比較的肌の白いラティノ系などを含む多人種的なメインストリーム多数派が形成され、抜本的な変化に抵抗する可能性もある。」(Richard Alba, “Achieving a More Integrated America,” Dissent, 57(3), June 2010:57-60)

急には少数化しないと言っても…

少数化する危機感から台頭しつつある白人右派に対し、アルバのような指摘は無力だと指摘する意見もある。ニューヨークタイムズの記事で、取材に応じたジョージメイソン大学のジャスティン・ゲストは次のように言う。

「より混合した白人性(whiteness)の時代が来るのはまだ先の話だが、(現在のトランプ支持者たちの)政治意識は目先のことしか見ていない。彼らに『心配するな、これらの移民たちもすぐ白人になるんだから』などと言っても戦略にならない。彼らは、ラティノ系、アフリカ系、アジア系はあまりに異なり、アメリカ的特質からかけ離れているという考えにとらわれすぎてている。」(Thomas B. Edsall, “Who’s Afraid of a White Minority?” New York Times, Aug. 30, 2018)

そりゃそうだろう。白人マジョリティはすぐには少数化しない、彼らの一部もやがて白人になるんだから…などと言ったところで右派が安心するとは思えない。

また、複合的な背景をもつ人々が増えれば人種差別がやわらぐといった見方に反論する人もいる。自身複合的な背景をもつニューヨーク市在住ライター、アレクサンドロス・オーファニデスは、「人種的な複合がなぜアメリカを救えないか」と題した記事で、人種が複合してもより色が黒い人が差別されるという体制は変わらないと主張している。人種の複合で差別解消を目指していたはずのブラジルやベネズエラでも、結局、色の濃淡での差別が続いているという。

将来のアメリカを展望する

アルバの将来展望は、突き詰めると次のようなものになるだろう。

「混成的な人々の社会的位置があいまいで微妙なものだというだけではない。アメリカの未来も同様に本質的に未確定のものだ、ということなのだ。これから2045年までに生まれるマイノリティ・白人混成の人々の数は、2016年時の数を大幅に上回る。この新たに生まれる人々が自分をどう規定しどこに結びつけるかは、部分的には他のアメリカ人、つまり白人、マイノリティ、他の混成の人々の今後の行動様式によって決まる。現在、人種民族的境界を越えてかなりの混交が起こっているが、これは、多くのアメリカ人の中に、親密な関係で境界を越えていいとする気持ちが出てきたからでもある。複合的背景をもった子どもたちに関する調査でも、白人の側に、一部マイノリティの背景をもつ人々を受け入れてもよいとする新しい傾向が生まれていることは確かだ(黒人との混成の場合は困難度が高いが)。この寛容度は加速するかも知れないし後退するかも知れない。単純な人口予測でなく、そうした社会の変化が、将来の人口様態も決していくということだ。」(前出“What Majority-minority Society?”)

ますます複合化、混成化を深めるアメリカ。それが社会をどう変えていくか、また変わるアメリカの中で複合化する人々がどのような意識を得て、どのような位置を占めていくか。以上検討してきたことからも、一筋縄ではいかないことがわかるが、いずれにしても人種や民族に関し固定的考えにしばられず、柔軟に展望する姿勢が求められることは確かだ。