スチャバの街で散歩に適した道は一つだけだ。ザムカ修道院からスケイア要塞跡にかけての山道。これ一択。なかなか厳しい、他にない。
街中に小さい公園はあるが、ウォーキングするほど大きくない。繁華街の舗道はまあ歩けるが、それは本当の散歩ではない。郊外に行く道路はどれも狭く交通量が多く、歩道がほとんどなく、車がスピードを出して走り、危険だ。そして脇の静かな道に出ようとすると、放し飼いの猛犬に攻撃される。大通りでも塀の中から連続的に吠えられるし、放し飼いの場合もままある。逃げ場がない。Walkable City、放し飼い番犬文化のなかにそれはない。
そういう中で滞在10日目にしてやっと一択の道を見つけた。緑多く、しかも犬が居ない、自然の散歩道。ある程度の長さがあり、眺望も優れている。そうこれ一択だ。下記の地図を参照。
おお絶景ぞ。周辺のなだらかに起伏する平原と丘がよく見渡せる。スケイア要塞は、14世紀末に、当時この辺を支配していたモルダビア公国(1359~1538年)が首都スチャバの西の守りとして気づいた砦だ。この丘のかなたからポーランドやハンガリーが攻めてくるのをよく目視できる場所だったとされる。モルダビアは現在のルーマニア北東部からモルドバ、ウクライナのドニエストル川付近までを指す地名だ。現在ハリソン州でロシアとの激しい戦闘が続いているが、ウクライナが奪還したそのニエストル川右岸地域も含むわけだ。スチャバには東側に比較的保存されているスチャヴァ要塞(スカウン要塞)があるが、この西部要塞は早期に廃棄され、形状も崩れている。近年の発掘で伝説の要塞跡であることがわかってきたが、周囲に史跡であることを示すサインや解説板はまったくなく、訪れる人たちも「眺めのいい場所だ」程度の認識らしい。地元の人にはWikipediaの詳しい解説を見せてあげるといい。
往復1時間の散歩、いくつかバリエーション
極上の散歩は、この見晴らしのよい要塞跡まで来て、そしてまたザムカ修道院まで帰るコースだ。往復で1時間程度の歩きとなる。
しかし、それでは単純すぎるというなら、いくつかバリエーションをつくることができる。ひとつは、要塞跡見学に焦点を当てて、近道の道路を入って来る方法。行きか帰りをこっちのルートをとってもいい。もう一つは、逆方向の要塞跡の先の方に降りて行って郊外側の道に抜けるコース。少々崖が厳しくなるが、猛犬に会うくらいなら急崖を歩いた方がいい。郊外側に抜けてもあまりいいハイキングコースはないが、私のホテルはそこから近くなる。
要塞跡からスケイア側に出る(そちらから入る)ルート
2番手もなくはない スチャバ要塞周辺
これだけ「一択」と言って紹介した後で何だが、実は2番手もある。同じく要塞跡、こちらは観光名所でもあるスチャバ要塞の周囲だ。その下の谷に優れた自然公園、散歩道が存在している。しかも、ここは市中心部に隣接するし、スチャバ名所のスチャバ要塞跡、農村民族屋外博物館、シュテファン大公騎馬像、宮廷跡発掘地、新スチャバ・セントジョーンズ修道院など見どころが多数存在する。普通ならこっちの方が「一択」と言っていい位だ。この近くには高級ホテルも多く、宿泊先がこの辺なら、まさにこれ一択になる。毎日この公園付近を散歩したらいい。
ただ、規模が小さい。私には満足できなかった。南端からちょっと行くと、市立公園があり、ずっと緑地帯が続くのかと期待させたが、これも児童公園で行き止まりになりそれ以上進めない。ここには開放的空間というものがないのか、と悲観した。