「完全な道路」 ーカリフォルニア州法案可決、知事が拒否権

今の道路は完全ではない。車が通る道はたくさんあるが、歩道はあるか。安全な横断歩道はあるか。自転車専用レーンはあるか。道路を,、すべての人、すべての交通手段にとって利用可能な「完全な」(comlete)ものにしよう。

この「完全な道路」(Complete Street)を州交通局に義務付ける法案が9月にカリフォルニア州議会で可決されたが、10月12日、ニューサム州知事がこれへの拒否権を発動した(「活発な生き方のための完全な道路」法案Complete Streets for Active Living Bill, SB 127、スコット・ウィーナー議員<民主党、サンフランシスコ地域選出>提出)。同州では、歩行者、自転車を含めたあらゆる利用者に配慮した道路の実現に向けた攻防が一段と熱を帯びてきている。法案は再び議会に返され上下院で3分の2以上の賛成が得られれば、知事の拒否権を越えて成立する。(ただし、慣例として拒否権がくつがえされることはあまりない。)

カリフォルニア州では、シュワルツネッカー州知事時代の2008年、自転車市民運動の連合組織兼ロビー団体「カリフォルニア自転車連合」(California Bicycle Coalition、本部サクラメント)などが提案した「完全な道路法」(Complete Streets Act, Assembly Bill 1358)がすでに成立している。市・郡が交通計画を更新する際、「完全な道路」を考慮するよう義務付ける法律で、これに連動して州交通局も独自に、州道に同様の考え方を適用する方針(Deputy Directive 64)を明らかにしていた。

しかしながら、州交通局は、自らの指針を十分に尊重せず、「完全な道路」のための道路改修をあまり行っていないとの批判が根強かった。今回州議会を通過した「活発な生き方のための完全な道路」法案は、州道修理の際に、そうした工事を施すことを州交通局に法的に義務付けるもの。そのための特別な建設工事を求めるものでなく、道路改修を行う必要が出た際にそのような工事も行うという現実的なアプローチであったし、そうしたニーズがあまりない地方道区間やコストが高くつきすぎる箇所などについては、公聴会開催の上除外できる規定も盛り込んでいた。しかし、法的な縛りを受けることになる州交通局は、同法案が多額の財政支出を迫るとの試算を発表。元サンフランシスコ市長で、9月の国連気候行動サミット(ニューヨーク)で活発な発言をするなど環境論者としても知られるニューサム州知事もこれに同意する形となった。拒否権発動の理由を次のように述べている

「私は、歩行、自転車走行、公共交通機関利用を増大させる設備改良を全面的に支持する。しかし、この法案は、目的を達成するためあまりに規範重視的(prescriptive)で高コストのかかるアプローチを生み出す。州交通局は、私の発布した知事命令N-19-19の実施を通じ、適切かつ実行可能性のあるところで、活動的な交通への投資を増大、加速させている。私は、同局が州内主要路と橋の維持につとめながら、責任をもって車の運転に代わるより多くのオルタナティブを提供するよう鋭意監督している。」

法案の対象となる州道は高速道路ではないが幹線路となる交通量の多い道。特にこれが市部に入って生活道の一部になるとき、事故が多発する。ここに厳格な「完全な道路」化の方向を義務付けることで、安全確保を狙っている。州内200近くの州道が対象となると推定され、例えば、(土地勘のある人のために例示するが)サンフランシスコで言えばバンネス通り、19番アベニュー、イーストベイならサンパブロ通り、ロサンゼルス圏ならサンタモニカ・ブーラバードなども該当する。

州交通局に実施を義務付ける法案は、2017年に最初に出されたが進捗がなく、翌18年に交通委員会まで行って否決、今年は上下院でともに可決され、拒否権発動されたが、知事署名の段階までは行ったということだ。すでに、2008年に基本となる「完全な道路法」は成立し、州交通局も「完全な道路」に向けた指針は出している。今回拒否権発動された法案がくつがえらなくとも、別途制度を強化する法案は様々に出てくるだろう。

全米の立法状況をモニターしている「スマート成長アメリカ」(本部ワシントンDC)は、33州政府を含む全米1500以上の自治体・地方政府で何らかの「完全な道路」政策が採用されている。カリフォルニア州交通局も、2017年に策定された計画tToward an Active Californiaで、2020年までに州内の歩行者交通を2倍、自転車交通を3倍にする目標を掲げている。