「完全な道路」:カリフォルニア州の新方針

州交通局、「完全な道路」政策を発表

この12月7日、カリフォルニア州交通局が、「完全な道路」(Complete Street)政策をその交通インフラ整備に全面採用する方針を明らかにした(Director’s Policy, No. DP-37, December 7, 2021)。

車だけでなく、歩行者、自転車、公共交通機関などあらゆる交通に対応する「完全な」道路づくりを目指すコンプリート・ストリート政策は、カリフォルニア州ではすでに、シュワルツネッカー州知事時代の2008年、「完全な道路法」(Complete Streets Act, Assembly Bill 1358)ですでに成立し、市・郡が交通計画を更新する際、「完全な道路」を考慮をすることを義務付けていた。州交通局もこれに沿った方針(Deputy Directive 64)を出していた。

今回の方針はこれをさらに徹底させ、局長と本部から地域事務所や現場のエンジニアにまで詳細に対応を明記した。管轄する州道はかなりの幹線道路になるが、歩道や自転車レーンの設置その他への配慮が必要になり、新規建設時はもちろん改修時も必要な対応が求められる。現実的な理由でこれが無理な場合はその理由の説明が求められ、交通局長の許可が必要になる。政策文書に付随して、具体的にどのような場所でどのような設計、施工が必要になるか詳しいガイドラインも翌年度第2、第3四半期など期日を限って作成することを各部署に求めている(Director’s Memorandum, December 6, 2021)。

トクス・オミシャキン交通局長は、この政策の発表に当たり次のように述べた

「カリフォルニアは、移動性とアクセス性を犠牲にすることなく、自動車運転への依存を削減しなければならない。州交通局と地方交通諸機関が新しい[訳注:新型コロナ禍からの経済再建に関わる]連邦交通インフラ助成の流入を準備する中で、我々は温暖化対策の目標を達成するため、全てのカリフォルニア州民に平等に奉仕しつつ、自動車交通に対する安全で至便、持続的でアクセス性ある代替策を提供する。」

力のある言葉

「完全な道路」(Complete Street)は力のある言葉ではないだろうか。自動車交通を減らせというのでなく、歩行者や自転車の交通も優遇を、というのでさえなく、道路というのはそもそも、人も自転車も公共交通機関利用も自家用車も、すべての交通のためのものではないか。現在の不完全な道路でなく完全な道路にしよう、という誰をも黙らせる強いメッセージを秘めている。自転車なんか優遇したら車が渋滞して困る、などの言いがかりの根拠を一言でものの見事に封じている。人々の道路や交通に関する観念を変えさせる言葉であるとも言える。2000年代初めに自転車交通を進める活動家たちの間からこの言葉が提起されるようになった。

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完全な道路の例。ノースカロライナ州シャーロット。Photo: James Willamor, Wikimedia Commons, CC-BY-SA-3.0
「完全な道路」の例。ベルリン。Photo: Eric Sehr, Flickr,CC BY-SA 2.0

(Complete Streetを「完全な道路」と訳したが、「完全な」の英語にはperfactもある。ニュアンスを含めて言えば「全部そろえて完結させた道路」くらいになるだろう。その意味では「コンプリート・ストリート」とカタカナで言った方がいいのかも知れないが、できるだけカタカナ語は控えたい。)

道路をコミュニティー空間としてとらえる

第二次世界大戦後のアメリカは自動車と高速道路の時代で、車でしか生活できないようなスプロール化した郊外が広がった。それに対抗して、歩行、自転車、公共交通機関利用のより人間的な街づくりの対案が示されるようになってきた。今回のカリフォルニア州交通局の政策にしても、単なる環境上の配慮から自動車交通削減を言っただけでなく、コミュニティーづくりの側面もきちんと押さえている点は評価できる。政策文書内に次のような文面がある。

「この政策は、州の気候、健康、平等、及び環境的な目標を実現するためだけでなく、社会的経済的に活発で力強く持続的なコミュニティーを育成する戦略として、歩行、自転車走行、交通機関・鉄道利用を促進・最大化する交通局の組織的優先順位を定めるものである。」

全米に広まる「完全な道路」政策

実はカリフォルニア州では、2017年以降、毎年のように州議会に「完全な道路」政策をさらに「完全」にさせるような法案が出ている。2019年には上下院を通り、州知事署名の段階にまで行った(そこで却下)。こうした法案には、現実的な理由から「完全な道路」化を免除する場合に公聴会を開くなどかなり徹底した内容が盛り込まれている。州交通局はこうした立法で縛れる前に、独自政策発出で先手を打った、という見方もある。

カリフォルニア州を始め全米には自転車交通を促進しようとする市民団体がたくさんあり、こうした運動を強めている。サンフランシスコ都市圏(ベイエリア)には、San Francisco Bicycle CoalitionBike East BaySilicon Valley Bike CoalitionMarin County Bicycle Coalitionなどがある。全米的には、より広い団体を連携してNational Complete Streets Coalitionが組織されており、Smart Growth America(SGA、本部ワシントンDC)に事務所をおいている。

SGAの集計によると、2000年までに「完全な道路」政策を採用したのが6州3市町だったのが、2020年には36州・領、1312町村にまで増えた